院長メッセージ

4年目を迎えた公共政策大学院

2007年4月

森田朗院長 東京大学公共政策大学院 院長 森田朗

東京大学公共政策大学院は、3月に2回目の修了生78名を社会に送り出しました。この4月で設立以来4年目に入ります。これまで、新しいタイプの専門職大学院として試行錯誤を続けてまいりましたが、最近では、次第に各方面からも高い評価を受けるようになり、私たちの教育に対して、社会からの期待もさらに高まってきているように感じております。

これからは、これまで築き上げてきた基礎に基づきより高度の教育環境を整備し、質的に充実を図るとともに、時代のニーズに応えて、さらに教育の内容面で拡充していきたいと考えております。

まず第1に、さらに一層公共政策の専門家にふさわしい公共精神と専門能力をもった人材の育成を図ることです。能力と意欲をもった志の高い人材に対する需要はますます増加してきており、私たちはそうした期待に応えうる人材の育成に努めております。そのために、実務家による授業の充実や、実務を体験する機会の拡充をさらに図っていきたいと思っております。

しかし、こうした人材が実際に社会で活躍するためには、その能力を評価しそれに応じた待遇で受け入れてくれる体制が社会の側に必要です。能力を活かす仕事として多くの学生が公務員を志望しておりますが、彼らの能力が最大限活かされるためには、それに応じた公務員の採用制度の整備も必要です。

今年度から、一部の地方自治体で、大学院の修士を対象とする、とりわけ公共政策系大学院を念頭に置いた試験区分が設けられるようになり、この点は私たちも歓迎しております。また、国家公務員I種採用試験においても、そうした方向での検討が進められていると聞いております。

しかし、他方では、最近の厳しい公務員バッシングのため、入学当初公務員を志望していた優秀な若者が途中で民間へ進路を変更するケースがみられるようになりました。これは、非常に残念なことと思います。

第2に、多様な社会のニーズへの対応です。現在、急速な国際化が進行していることについては改めて述べるまでもないでしょう。それに対して、国際社会で公共的な仕事を志望する学生諸君も多く、また、世界の動きは、国際的な視野と国際的舞台で活躍できる人材を求めています。こうした状況下で、世界の公共政策系の大学院は相互に連携を深めつつあります。

当大学院も、そうした世界の動きの先端を進むべく、外国の大学院と提携し、相互に学生を交換する留学制度を設けるとともに、将来的には、それぞれの大学院で1年ずつ学び、単位の互換を認めることによって、双方の大学院から学位を得られるダブル・ディグリー(二重学位)制度の導入を検討しています。

既に、コロンビア大学公共政策大学院およびシンガポール国立大学リー・クァンユー公共政策大学院とは学生交換の協定を結びましたが、今年度中にさらにいくつかの海外の大学との提携をめざして準備を進めています。

こうした国際化への対応とともに、国内においても地方自治体職員をはじめとする社会人からの入学の希望も多数寄せられています。現状では、当大学院は2年修了の課程しか設けておりませんが、それでは働きながら学ぶことには制約が多いので、現在、一定期間の実務経験を有する学生には、実質的に1年間のコースワークで修了が可能になるようにカリキュラム等を工夫すべく検討を進めております。

第3に、当大学院の教育と密接に結びついた研究活動の拡充です。専門職大学院で行っている高度の教育には、最先端の研究成果を反映することが必要です。また、実務に通じた教育を行うためには、先端的研究の場に実際に参加することが大切です。そのために、当大学院では、これまでも民間企業等からの寄付による寄付講座や研究ユニットを設けてきました。

既に、「国際交通政策研究ユニット」(ITPU)、寄付講座「エネルギー・地球環境の持続性確保と公共政策」(SEPP)、寄付講座「リスクマネジメントと公共政策」が活発に研究活動を行っており、その成果も次々と発表されています。さらに今年度からは、みずほ証券の寄付による寄付講座「資本市場と公共政策」がスタートしました。今後さらにこうした寄付等による研究を推進するとともに、そうした寄付等による教育環境の充実も図っていきたいと考えています。

第4に、法人化後の国立大学の財政事情は厳しく、大学も大胆に改革を行い、新たな社会的役割を担うことが期待されています。その一つが社会連携の強化、社会への貢献の拡大です。

公共政策大学院の目的は、そもそも社会における課題を解決し、より望ましい社会を創るために、公共政策の研究を行い、公共政策の専門家を育成することですが、今日の改革の時代においては、当大学院に社会に向けての発信、政策提言を行うことへの期待が高まってきています。

大学が政策をめぐる政治的な動きに巻き込まれることは望ましくありませんが、大学のもつ知識や人材を活用して、社会の課題を解決するために選択肢を示すことは、そうした社会連携、社会貢献に一環として担わなければならない責務の一つといえるでしょう。

公共政策大学院では、将来的にこうした役割を果たすことも視野に入れて、全学的なアクションプランの中で、研究部門の充実も図っていきたいと考えています。

関連項目

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