2025年度研究テーマ 「トランプ政権誕生と世界のエネルギー温暖化政策動向」 第7回 WEO2025の特徴と概要(速報版)
研究会の概要
本研究会では、J-POWER 中山寿美枝氏(J-POWER執行役員/京都大学経営管理大学院 特命教授)より、11月12日に発表されたIEA『World Energy Outlook 2025(WEO2025)』について、過去のWEOとの比較分析を踏まえた報告が行われ、世界のエネルギー見通しと気候目標の関係を巡って議論が行われました。とりわけ、シナリオ構成の大きな変更と、その政策的含意が焦点となりました。
シナリオ再編と1.5℃目標の「オーバーシュート」化
WEO2025では、現行政策シナリオ(CPS)(※1)が4年ぶりに復活した一方で、各国のカーボンニュートラル表明達成を前提としたシナリオ(APS)は、新たなNDC(※2)が出そろっていないことから休止となりました。ネットゼロシナリオ(NZE)(※3)は、従来の「1.5℃抑制シナリオ」から、一度1.5℃を上回ったのち2100年に1.5℃へ戻す「オーバーシュート・シナリオ」へ変更されているとのことでした。このため、2100年まで年間約3.8GtのBECCS(※4)やDACS(※5)による大規模なCO₂除去を継続することが前提とされている点が強調されました。
(※1)CPS (Current Policies Scenario):現在法制化されている、または実施が決定されている政策のみを反映した将来のシナリオ
(※2)NDC(Nationally Determined Contribution):温室効果ガスの排出量削減目標
(※3)NZE(Net Zero Emissions):2050年までに世界のエネルギー部門のCO₂排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)にするための道筋を示したシナリオ
(※4)BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage):バイオエネルギー炭素回収・貯留
(※5)DACS(Direct Air Capture and Storage):直接空気回収・貯留
CPS・STEPS中心への転換と報告書構成
今回のWEOでは、CPSと既採択・公表済み政策を織り込んだSTEPSが主役となり、NZEは脇役的な位置付けとなっていることも強調されました。報告書本体でも、現状の傾向と政策に基づく見通し(CPS・STEPS)に最も多くのページが割かれ、目標・公約ベースの章やNZE章は相対的に簡潔です。また、WEO2021以降に見られた「NZEを目指す」というトーンから、エネルギー安全保障や重要鉱物、AIやデータセンターによる電力需要の拡大など、現実の制約と不確実性を前面に出す記述へ重心が移っていることが指摘されました。
化石燃料・再エネ見通しの修正と地域別の特徴】
過去版との比較では、STEPSにおける一次エネルギー供給やCO₂排出の想定について、化石燃料の減少ペースがやや緩み、再生可能エネルギーや運輸部門の電化率の「上方シフト」が一部で頭打ちになっていることが示されました。とりわけ北米では、石油・ガス・石炭需要の上方修正と原子力の大幅な増加が目立ち、トランプ政権下の政策変更が反映されている可能性が指摘されました。一方、中国については、石油・石炭需要が近くピークアウトし、その後減少に転じるという従来の描像を維持しており、世界全体のCO₂排出プロファイルを左右する重要要因であることが確認されました。
中山寿美枝氏(J-POWER執行役員/京都大学経営管理大学院 特命教授)講演資料「 WEO2025の特徴と概要(速報版) 」
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