セミナー

第1回 ITPU 公開セミナー(2005-12-15)

議事録

基調講演 ブリティッシュ・コロンビア大学テ・オーム教授

ご紹介ありがとうございます。まず、院長に対しても、また金本先生も、ITPU を立ち上げるためにご尽力いただいたということでうれしく思います。ITPU が発足して間もなく山口先生からセミナーでスピーチをしていただけないかというお話がありました。このような機会をいただいたこと誠にうれしく思っておりますし、皆様のような立派な方々の前で、しかもこういった素晴らしい大学において、さらにITPU という研究ユニットの場にお誘いいただくことは誠にうれしく思ったのですが、OECD/ECMT(欧州運輸大臣会議)の方で議長を務めており、12月はパリで大きな会議があるので、なんとか口実を設けて失礼しようかと思っていたのですが、山口先生が非常に説得力のある形でおっしゃったものですから、では共同のプレゼンテーションをしましょうということになりました。今日は主に政策上の問題についてお話しいたします。二国間および国際的な交渉の現状等について、私なりの私見を申し上げたいと思います。あくまでも私の個人的な考えですから、もし何かミスがありましたら、決して先生方をお責めにならないで、これは全部私の責任だということです。

では、今日のお話の内容ですが、まず、グローバルな経済と航空輸送ということ、東アジアにおける航空輸送、また、制度改革における課題ということで、アジアが今後航空分野において進む上での課題をお話いたします。

世界経済ですけれど、現在急速に成長しております。ただ、専門家の予測によりますと、石油価格が上昇しているにもかかわらず、短期的には安定的な成長を示すだろうという事が予測されております。

また、大半のアジアの国々、中国、東南アジア諸国を含めて、経済は急成長を続けると思いますが、しかしながら国民1 人あたりの所得ということになりますと、各国間でかなり格差が出てまいります。

さらに世界の貿易網も非常に拡大しておりまして、とりわけ東アジアにおいては世界の工場、世界のハブといわれるのみならず、成長エンジンとさえいわれております。また、ASEAN 諸国プラス日中韓を加えた貿易量というものも極めて伸びており、これらの地域において世界貿易量の25%を占めるに至っております。世界の輸出入貿易は90年においては輸出入が7兆ドルであったものが、2003年時点においては15兆ドルということで、日中韓の3カ国で全体の18%を占めております。

次に航空輸送量の伸びでありますが、左側の方の図を見ていただきますと、70年から非常に幾何級数的に大きな伸びを示しております。もちろんその間には経済危機であるとか、石油危機であるとか、80年代初頭の問題である、また90年、内外においては湾岸戦争、また石油問題、それから同時多発テロ、イラク戦争、SARS等がありましたが、にもかかわらずそれ以降は急速に伸びております。

次にGDPに対する需要の弾力性でありますが、世界全体で1.5程度です。経済成長率は2.9%でありましたが、航空輸送における旅客の伸びは、同じ期間4.8%ということで、GDPの150%の比率で伸びているわけです。このようなことから、世界経済が一定期間成長を続ける限りにおいて、それよりもさらに急速に航空輸送需要というものは伸びてまいります。また経済成長の伸び率の2倍のスピードで貨物の需要というものが全般的に伸びると考えられます。

さて、この航空輸送の世界的な姿を見てみますと、北米が全体の25%を2004年時点において占めております。アジアの需要ですが、これは15%強となっております。しかし、今後、アジアの伸びが北米の伸びを上回っていき、2024年時点においては、北米に比べてアジアの方がシェアが大きくなると予測されております。

さらに世界の潮流を航空予想で見てみますと、競争が大陸間で激化しております。また、長距離の大陸間路線においても、様々な国際的なキャリア同士のアライアンスが台頭しております。例えば全日空がスターアライアンスに加わったことであるとか、ユナイテッド、エア・カナダ、ルフトハンザなどもそうであります。このように主要なキャリアが大陸間でアライアンスを構築し、またそれぞれの大陸においてフィーダーネットワークというものを作っております。

90年代半ばから様々なアライアンスが台頭いたしました。最初にできたのがスターアライアンスで、現時点において15強のエアラインがここに加わっております。グローバルネットワークが構築されたわけでありまして、そのあとにできたのがワンワールドというアライアンスであり、これはブリティッシュ・エアウェイズ、アメリカン・エアラインズ、それから日本航空も参加を表明しています。従って日本に関しては2つのアライアンスがお互いに競合関係にあると、ワンワールド対スターアライアンスという構造になっております。3つめのアライアンスがスカイチームで、これはエア・フランスであるとか、デルタであるとか、もしくはコリアン・エアなどが加わっております。

この図をご覧いただきますと、確かに当初はスターアライアンスがグローバルネットワークを構築する上で明らかなリーダーでありました。しかし今やワンワールドにJAL が加わろうとしていますので、これはワンワールドにとって大きな助けとなります。その結果3つのアライアンスを見ますと、有償旅客キロ、RPKで見ますと、まさにお互いに拮抗してきており、グローバルネットワークにおける厳しい競争が見られます。

また、次に地域主義の台頭ということで、航空の世界においてもブロックの形成が見られつつあります。例えばEUにおいては97年に、国内市場をすべて含んだ、すべての国における単一市場が誕生し、それによって大きな変化が出てまいりました。

またさらに、オーストラリアとニュージーランドの間では、トランスタスマン協定というものが2000年に締結されまして、規模的は小さいながら統合市場が誕生しました。

また、ご存じのように、米国とカナダが、より自由度の高いオープンスカイ協定をほんの2ヶ月ほど前に締結いたしました。これによって第5の自由、以遠権というものを含んでいるわけですし、貨物に関しては第7の自由も含んでおりまして、北米におけるまさに大きなブロックが形成されたということが分かります。

また域内市場において、米国、EU市場、アジアなどにおいて、ローコスト・キャリアの参入が非常に顕著になってまいりまして、彼らもマーケットシェアを拡大しつつあります。今までの古い形のエアラインのビジネスモデルに、挑戦を挑んでいるわけです。例えば米国においては、中距離路線などにおいてもこういった挑戦が見られまして、3000マイル、5000キロくらいのところでも競争があります。

また、欧米の市場においては、より自由化された市場が形成され、競争促進型の、より効率化を図るような方向に業界を率いております。またご存じのように、EUも拡大を続け、昨年15ヶ国から加盟国が25ヶ国になり、EU市場も、統合された大きな市場になりました。さらにEUにおいてはご存じのように、エア・フランスとKLMが実質的に経営統合を果たしましたし、そういった中でローコスト・キャリアとしてライアンエアとかイージージェットとか、またジャーマンウィングスが活躍しております。この結果、欧州においては共通の競争政策、安全上の政策、またECC における所有に関するルール等が確立し、まさに実質的に単一の市場となってまいりました。また、欧州委員会の方が、米国を相手に交渉権限を有するようになりましたので、ご存じのように最近は大西洋間の市場も自由化に向けて最近合意がなされました。

さて、EUにおいては、エアラインはローコスト・キャリアの台頭で激戦状況にあります。単一市場が生まれたために、私どもは大きな変化を今見ているわけですが、とりわけブリティッシュ・エアウェイズを見ますと、非常にローコスト・キャリアとの競争で苦戦しており、イージージェットとかライアンエアの競争にさらされているわけです。かたや、KLM、エア・フランス、アリタリア、イベリア航空、ルフトハンザ等を見ますと、まだローコスト・キャリアとの競争はそれほど厳しくはありません。また、米国市場を見ますと、米国においては市場の60〜70%がすでにローコスト・キャリアからの競争にさらされております。

米国においてはアメリカン・エアラインを除きまして、他のエアラインに関してはほぼ、ほとんど破産手続きを経験しているわけです。同じようなことがヨーロッパでも今後おきるというふうに予測しております。BAの場合には上手く乗り切る調整をしておりますが、しかしその他のキャリアに関しては、まだ効率的な状況にはなっておりませんので、今後こういった旧態依然としたビジネスモデルを使っているヨーロッパのキャリアは、大きな変化にさらされると思います。

さて、オープンスカイの動き、アライアンス形成の動きというものは、世界各地で、アジアでもアジア太平洋地域でも、南アメリカでも見られます。

では次に、東アジアにおける今後の課題は何かといいますと、まず東アジアのネットワークというのは、長らく極めて制限的な2 国間の航空協定によって形作られてまいりましたし、単独のハブネットワークからなる、分断された制度に頼ってまいりました。

長期的に見ますと、国際交通の利便性がどうなるかということが、東アジアにおける空間経済に非常に大きな影響をおよぼすわけです。ですから、国際的な航空ネットワークをどう構築するかということが、まさに影響をおよぼすことになります。

したがって国際的な交通システムを構築する際には、日本の場合、1 国だけの自国のインフラというふうにとらえるのではなくて、東アジア地域全体を包含するような共通の公共インフラというふうに考えていかなくてはいけません。

もし、米国とEUの合意というものが批准されれば、これがアジアに大きな影響をおよぼすと思いますし、またこの地域のキャリアに比べて、北部大西洋の地域というのは極めて効率的な状況になります。遅かれ早かれ、北米の共通航空領域というものが誕生するわけですから、そうしますとアジアのキャリアの競争力というのは、長期的には不利な状況に陥ります。

次に日中韓について見ますが、日本に関しては、日本の航空輸送分野、市場は大幅に成長してまいりました。ただ、最近を見ますと、日本の状況はどうも膠着状態に陥っているように思います。といいますのも、日本における航空市場においての生産要素というものが、調達先が高いコストの日本に限定されているからであります。こういった中で、規制改革をさらに進めて、この生産コストというものに対して上手く対応できるような手法が必要だと思います。例えば調達先をより自由化して、アジア各地から調達できるようにする必要があるかと思います。

さらに、地域市場の統合によりまして、日本のエアラインは、より高いコストの国から調達するのではなくて、域内のよりコストが低い国から生産要素を調達することができるようになりますし、また、中国を含めた急速に拡大する東アジア市場に、日本のエアラインが、より積極的に参入することができるようになると思います。

中国に関しては、経済的にも、航空の分野においても世界的に急成長を遂げておりますが、中国の課題というのは、航空業界が必要とする、有能な技術能力を有した人材を、いかに確保するかということです。中国の内陸部、および西部の方は、より発展が立ち後れているわけですから、政治的にも、また航空分野においても問題となるわけです。こういった中で、中国政府は西部地域、内陸地域をより開放して、航空輸送が活発化するようにしようとしております。中国はアジアの隣国と市場統合する必要性を感じているわけですし、国際輸送、航空輸送を含む、国内問題をそれによって解決しようとしております。

次に韓国ですが、現時点において、韓国はおそらく日中韓の中で最も優位に立っていると思います。コスト的にも低く、技術力もあり、また技術を有した人材にも優れております。政府と業界は一体となって、東アジアの物流立国になろうというふうに取り組んでいるわけです。ちょうどオランダとかシンガポールのような存在になろうとしているわけですが、しかしながら上海とか、中国のその他の港湾との競争が大変であります。

韓国に関しては、今後貿易、運輸、ともに自由化し、上手く地域の物流ハブになろうというふうにしております。彼らの最適な性格としてはシンガポールスタイルのオープンスカイ政策を主要国と締結するということです。現在の韓国の2 国間の航空協定のプロセスを見ますと、フラッグキャリアに、KALだとかアシアナ航空とかそういったものに非常に大きな影響を受けております。

日中韓に関してはこれからも、地域の中で航空市場の開放というものが必要であり、すべての東アジアを包含したようなものにしていく必要があります。

それでは、改革のための課題について申し上げたいと思います。

現在の規制的な枠組みを見ますと、国内と国際の両方が分断されて政策に連携が見られません。また、航空協定のもとでは、国際路線を運航する指定航空会社というのは、自国籍に過半数は所有され、支配されていなくてはいけません。国内市場は主に自国のキャリアに限定されているという状況でありまして、これが東アジアの状況に大きな影響をおよぼします。中国というのは巨大な存在であり、いずれは米国のような存在になるわけですから、中国がなすことやることが、今の状況のまま放置されますと、大きな影響力をおよぼすようになりますし、東アジアにおける運輸ネットワークの仕組みに関しても、多大な影響を中国から受けることになります。

さて、国内市場はこのように自国のキャリアに限定されているということで、日中韓ともこういう状況にありますが、それぞれ市場が成長し、とりわけ中国市場というものが米国を追い抜いて、世界で大きな市場となると思います。そうしますと、アジアにおける中国の航空会社の影響力というものは多大なものになるわけです。現在は航空協定というのは、日中韓それぞれの間で、2国間ベースで結ばれておりますが、全部国ごとに分断されているわけです。

現在の規制的な枠組みを見ますと、アジアのエアラインにおいては、成長の機会というものが限定されてしまうと思いますし、また、アジアのエアラインは効率的な複数のハブからなるネットワークを構築することから、発展を阻まれているわけです。そういうことで、東アジアのエアラインは主として単独ハブのキャリアということで、主に自国ベースということになります。こういった中で、アジアのエアラインは真の意味でのアジアのキャリアとはなれない、効果的にアジア市場全体を包含することはできない状況にあります。

2国間の航空協定というのは、あまりにもフラッグキャリアの影響を受けすぎていると思います。2国間協定というのは、輸送力とか、また市場に関しても当該2ヶ国間のキャリアにおいて分割されるわけですし、これは利用者、市民の利益に反するものであり、また各国の全般的な経済的な利益にも絡むものではありません。

経済理論によりますと、地域市場、この場合には東アジア市場ですが、において競争がさらに高まりますと、これがその地域の中の国々の経済的厚生を高めると考えられますが、いわゆる国益を守る、それを高めるというふうな考え方は、この精神に反するものでありまして、交渉担当者というのはなんとか国益を守り、高めようとしてしまうわけです。

ほとんどの2国間の交渉担当者の心の中には、国益を守るということは、すなわちフラッグキャリアの利益を守るのだという誤った考え方を持っておられる、ここが大きな問題であって、そういう考えを持っておられる担当者はこの部屋にはおられないことを期待しております。

その結果、そもそも交渉をするのは真の自国の経済的な利益のためと思っているわけですが、それに反したことになっているわけです。このような誤った考え方というものは、国益という視点からは近視眼的なものの見方だと思っております。こういった見方を持っているために、交渉担当者は非協力的なゲームのような形で交渉するわけです。そうしますと、自国のフラッグキャリアが失うような市場があれば、それを何とか守ろうとすると。そしてフラッグキャリアにとっての運輸権を確保し、拡大しようとするわけです。

このようなものの見方をする世界においては、いわゆる手強いタフ・ネゴシエイターと呼ばれる人が尊敬されるわけですが、実際には皆の経済的なパイを拡大するための、プラスサムゲームというものを見失っているわけです。

このような混沌とした状況の中で、どうやって協調的な体制を確保するのでしょうか。この図にあるように、今、天秤はずいぶん右の方が重くなっておりまして、既得権益であるとか国益だとか、その国益も真の国益ではなくてフラッグキャリアの利益だけを見ている状況であるわけです。かたや左側の方は、利用者の利便、地域の協力、また企業の立地、また競争力を長期的に確保するということにあるわけですが、これとバランスがとれたものにしなくてはいけません。

さて、現在はこのような混沌とした状態であるわけでありますが、これを変化させるためには、共通の目標設定をし、また繰り返し繰り返しパートナー同士でお互い交流を図ることが必要だと思います。このような建設的なアプローチが、まさに共通な基盤を作り上げる上で有益であり、またこれによって市場統合が進み、またプラスサムゲームになるわけです。従って共通の基盤を、目標を設定するため、また繰り返し交流を図るのにふさわしいような分野、もしくは議題というものを特定化することが必要です。

このような中で、国を超えた産官学の委員会を作ると、そして国全体を網羅するようなそういった委員会を作ることが、東アジアのパートナーとの関係を緊密化するのに役に立ち、共通の基盤を見いだし、またプラスサムのアプローチを追求し、また交渉のための議題というものを決めることができると思います。

東アジアの各国は、今後は現在の規制的な枠組みというものを見直し、そうすることによってより効率的な地域の航空輸送ネットワークというものを発展させていかなくてはいけないと思いますし、これが長期的にはすべてのフラッグキャリアにとっての利益にかなうと思います。ありがとうございました。

パネルディスカッション

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