セミナー

第1回 ITPU 公開セミナー(2005-12-15)

議事録

パネルディスカッション

(司会) オーム教授、どうもありがとうございました。本来ならここで質問を受けたいところですけれども、時間が限られておりますので、恐縮ですがパネルディスカッションの方に移らせていただきます。ちょっと壇上セットをさせていただきますので、その間にパネルディスカッション参加者の皆様をご紹介してまいりたいと思います。

このパネルディスカッションは、公共政策大学院の副院長ならびに経済研究科の金本教授にモデレーターをお願いしています。そして、パネリストといたしまして、先ほどご講演いただきましたオーム教授に加えまして、3名の方にお願いしております。

最初に、国土交通省大臣官房審議官の井手さんです。井手審議官は昭和51 年に運輸省に入省されまして、その後航空、観光、鉄道等の幅広い行政分野で要職を歴任され、平成2年からジュネーブの国際機関日本政府代表部に3 年ほどおられまして、その間GATT のサービス貿易交渉などにも従事されました。国際航空関係には大変長く携わっておられまして、平成10年には長年の懸案でございました、日米航空交渉の合意をまとめられまして、日米の不均衡を是正された立役者のお一人でございます。平成16年7月から現在の審議官の職を勤められております。

次に、定期航空協会企画委員、全日本空輸株式会社取締役企画室長の岡田さんでございます。岡田さんは、昭和49 年に全日本空輸株式会社に入社されまして、整備部門で提携などのビジネスモデルの構築、グループ経営の展開に従事されまして、その後先ほどもありましたけれどもスターアライアンスへの加盟であるとか、同社のマーケティング部門の再構築を手がけられまして、平成15 年から現職を勤められておられます。全日空の最近のV字回復を果たされるとともに、最近では日本郵政公社との提携をまとめられるなど、国際物流にも積極的に取り組んでおられるということでございます。

それから3人目は、香港をベースとするファー・イースタン・エコノミック・レビューのコラム・マーフィーさんでございます。ダブリンの市立大学をご卒業後、コロンビア大学あるいは明治大学で修士号を取得されまして、アジアン・ウォール・ストリート・ジャーナルとか日本経済新聞等のリポーターをされまして、今年の3 月から現職を勤められております。今日は、名通訳の森さんに来ていただいておりますけれども、マーフィーさんは実は日本語もおできになるということですので、もしよろしければ日本語でと思いますが、今日は英語でお話されるということでございます。

パネルディスカッションにご参加の方々は以上でございます。それでは恐縮でございますけれども、壇上のほうにお上がりいただきまして、ディスカッションに入らせていただきたいと思います。皆様、よろしくお願いいたします。

(金本) 時間もおしておりますので、さっそく始めさせていただきたいと思います。今、オーム先生のお話にありましたように、国際航空が直面している問題というのは、非常にシャープなものでございます。まず、東アジアの航空マーケットは、急速に拡大しておりますし、これからの10年、20年の間にもっと急速に拡大するだろうということが予想されます。その中で、東アジアの航空関係の仕組みが、このままでいいかどうかということについては、大きなチャレンジが控えているということであります。先ほどご紹介がありましたように、EUではEU内のマーケットがほぼ完全に統合されておると。北アメリカではカナダ、アメリカのマーケットが統合されていると。でまた、ヨーロッパのマーケットと北アメリカのマーケット、トランス・アトランティックのマーケットが自由化されていく状況にあります。こういうことで、ヨーロッパ、アメリカ、あるいはそれを結ぶ航空というのは、非常に便利になっているということと、それから、その中で勝ち残る足腰の強いエアラインができてくるということだろうと思います。

こういう状況をにらんで、ここにいるパネラーの方々に、これからの展望とチャレンジ、それにどう答えるかということについて、お話いただきたいと思います。最初に、全日空の岡田取締役のほうから、メガキャリアから見た今後の展望と、それからマーケットに関わる、いろいろなご意見についてお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

(岡田) 岡田と申します。よろしくお願いいたします。今日はオーム先生の力強いプレゼンテーションを見て、しみじみなるほどと思うところが強いわけですが、確かに今、私どもは、私は定航協という立場で来ているわけですが、実は非常に複雑な心理状態で聞いているのは、私はANAにおりまして、一方で定航協の内側の大きなパートナーとしてはJALさんがいらっしゃるわけです。歴史の中では先ほどオーム先生がおっしゃった「フラッグキャリア」という概念は、歴史的にはJALさんがリードしてきた立場かなと思います。

そういった中で、ANAがスターアライアンスに入ったころから、感じていること、これは定航協でも今や十分認識されていることだと思うのですが、アジアあるいはこの世界のグローバル・マーケットで勝ち抜いていこうと思いますと、結局真のカスタマー、お客様のニーズをどう満たしきるかと、やはりプロダクト・アウトからではなくて、マーケット・インでやっていかなければいけないということです。

それで、そういうことを思いますと、たとえば空港が便利になっているかと。世界の空港は接続時間、ミニマム・コネクティング・タイムというものを大変工夫しているわけです。今、羽田のPFIということで、2009年をめざした国際ターミナルを展開していますが、そういったところでの工夫がポリシー・オリエンテッドになっているかということが、今、議論されています。世界に勝てるかどうかというのは、単独のキャリアの努力というより、まずそういうふうに、わが国が、概念、コンセプトをしっかり持って設計していけているかと。そのコンセプトはどこから来るかというと、先ほど先生がおっしゃいましたように、国益といいながら実は歴史的な権益の確保とか、あるいは1つのエアラインと1つのエアラインのパイの取り合いと、こういうことになってはいけなくて、常に、たとえば今回のテーマでありますアジアを見たときに、日本の皆様が、あるいは日本をめざしてこられるお客様が、使いやすい、価値のあるサービスを提供しているかということだと思います。

私は、貨物の話も重要だと思うのですが、たとえばEUとか北米は、地続きのインフラの中です。それに比べますと、アジアは、特に日本は、海を隔てた所にございますので、アウトバーンでつながっているわけでもございませんし、人の動きというものをプロモートしようとすると、文化や語学、いろいろな壁があるのだろうと思います。ただ、ものの動きは活発だろうと。ごく最近、SARS、イラク戦争、テロ、こういった脅威にさらされたときも、実は物流だけは健全に動いているのです。そういったことから考えますと、このテーマを議論するときに、ひょっとしたら物流での政策的な出遅れは、本質的に日本を孤立、つまりアジアの中で一番負け組に持って行ってしまうかもしれないと思います。そういった意味で、議論の焦点を、人間、パッセンジャー、お客様だけではなくて、物流でどういう突破口を開いていくかということが大事かなと、こういうふうに思った次第でございます。

(金本) どうもありがとうございました。物流に関しては、あまり一般の人は議論されないと思いますが、世界の、国際間の輸送の、トンキロでいえばそんなに大きなシェアではないですが、貨幣価値でいえば、すでに半分を、航空輸送が超過しているといった状況のようであります。そういう意味では、価値の面から言ったら、非常に大きな問題だということになります。

次は、航空政策の当局で、これまでいろいろご苦労をされてこられた井手さんのほうに、これは当局者としての公式見解ではなくて、ご自由な立場からご議論をいただくということでお願いしたいと思います。

(井手) 国土交通省、井手です。先ほどオーム教授のお話の中に出てまいりました、いわゆるネゴシエイターでありまして、諸外国の政府と、まさに国際航空のいろいろなアクセスの話、その他交渉をしております。私がタフ・ネゴシエイターかどうか、自分自身では評価はいたしませんけれども、オーム先生もおっしゃったように、ここにそういう人はいないということで、概念をミスガイドしていない者であると思います。

前置きはそのぐらいにいたしまして、実はそういうバイラテラルの政府間交渉でございますが、今、アジアの仕事が一番多くなっております。これはもうアジアの航空マーケットが一番伸びているということの一番目に見える指標でありまして、仕事はやはりアジア相手の仕事が一番多く、ヨーロッパはほとんど無く、アメリカは少ししかない、とこういう状況に今なっておりますけれども、今オーム教授からいろいろと基調講演の中でお話いただいた、東アジア、一応ASEANも含めていくと議論は大変複雑になりますので、とりあえず東アジアの、俗に言うASEAN+3の、3の方の日本、韓国、それから中国という点について、若干自分なりに仕事を通じて持っている感想だけ、申し上げさせていただきますと、先ほどの先生の分析、それぞれの国に、3つの国について、それぞれ大変正鵠を得ておられる、大変正しい正確な分析ではないかと、実務者の点からも思います。とりわけ日本のこれからの国際航空、とりわけ東アジアなり、アジア全体の課題というのは、なんと言っても、インプットですね、生産要素を調達するリソーシズを、なるべくアジアの各地から安いコストで調達してくるように、いかに企業展開していくかということが、航空企業として一番大事なことになってくると思いますし、それから、中国につきましては、中国の航空界というのはやはりおっしゃる通り、まだまだいろいろヒューマン・ケイパビリティのみならず、いろいろな面で、未発達のところがございますので、そこの点の解決というものが、何よりも必要なのかな、というふうに思います。また、韓国の航空界というのは、今は、この分析にある通り、最もアドバンテージがある、この3つの中では。とりわけ韓国は、今、だんだん国内のマーケットが無くなってきています。ご案内の通り、TGVが釜山とソウルを結ぶようになってからは、約500キロ未満のソウル−釜山というマーケットが、日本でいえば唯一東京−大阪くらいのマーケットが、韓国ではもうすでに無くなりつつあるということでありまして、そういう意味では韓国の航空界は、いってみればシンガポールのようになってきているということが、いえると思います。そういう意味ではますます、逆に言えば、生産資源が余っているわけでございまして、その余った資源を外に向けていくという形の展開をしております。しかも、技術的にも大変優れておりますので、そういう意味でアドバンテージがあるということだと思います。

以上、3つの国の航空界の自分なりの分析を申し上げましたけれども、これを先ほどのオーム教授の発言にあったような、インテグレーションをどうしていくのか、という点につきましては、これは、すみません、大変現実的な見通しという意味で、自分の意見ということではなく見通しという意味で申し上げますと、まだまだ道は遠いというか、将来の話ではないかというふうに思っております。EUそのものの今の航空市場の統合も、考えてみれば1950年代は、それこそヨーロッパの鉄鋼共同体、石炭共同体から始まった、長い長い50年を越える歴史、50年の歴史の中で、やっと航空は、例えば最後に近い段階でまとまって統合してきたということから分かりますように、好むと好まざるとに関わらず、現実問題として大変バイラテラル、あるいは国籍の、あるいはナショナルフラッグの壁といいますか、そういうものがあると思いますので、なかなか簡単な道のりではないというふうに思っております。またそのEU以上にアジア、これはさっきの3つの国だけをとって見ても、かなりヘテロジニアス、つまり均一ではございません。従ってそういう点からも、制度的な面での統合というものは、まだまだ遠い先の話ではないかというふうに思いますが、ただ現実に、制度論の議論を越えて、今、現実はどんどん進んでいるということを指摘したいと思います。現実と申しますのは、お互いにそういった、今のバイラテラルの仕組みの元ではありますが、ルート、提供するサービスのルート、どの路線をサービスするかということとか、あるいは先ほどありましたような、生産、インプット調達先とか、つまりアウトプットとしてのサービス、それからインプットの調達の場所、その両方の面において、どんどん相互依存、完全なインテグレーションまでは行きませんが、インターディペンデンスはどんどん進んできているという、現実が前に進んでいるということがあると思います。1例を申し上げると、例えば韓国の航空企業、先ほど申し上げたアドバンテージのある航空企業というのは、実は相当、日本の大都市以外の地方都市は、もうすでにほとんど韓国の国際線に頼っています。これはアウトプットという面において、韓国がいわば日本の生産の相当部分を、言ってみれば肩代わりしているという状況が、現に進んでおりますし、またインプットの調達ということで言うと、日本もそうですけれども、例えば大変手間のかかるメンテナンスとか、そういったものについて、中国の工場に一部外注、アウトソーシングしているとか、そういう形で、インプット、アウトプット双方が、韓国、中国、日本の3つが、お互いに相互に補完していくという状態は、これからもっともっと進んでいくのではないかと思っております。そういった企業間の、お互いの、それぞれの国の相互依存、それから先ほどもオーム教授からご指摘がありました、例えば政策面でのリピーテッド・インターアクション、コモン・ゴール・セッティングに、適切なアジェンダについて、いろいろ交流あるいはコミュニケーションを図っていくといった、そういった地道な、意識的な努力、その両方が積み重なって、長い目で、先の統合に向かって、相互依存というのが、どんどん進んでいくのではないかと考えている次第でございます。

(金本) すぐに制度的な統合というのは、なかなか難しいけれども、現実面に、いろいろな格好で、均一な統合が起きてくるだろうといった感じのお話だったかと思います。

次はマーフィーさん。アイルランドのご出身で、ホンコンに在住されていて、アジアから見たアジアの航空、その中の日本の政策方向といったことについて、お話いただけると思います。よろしくお願いいたします。

(マーフィー) どうもありがとうございます。私は、ファー・イースタン・エコノミック・レビューのマーフィーと申します。こちらはダウ・ジョーンズが所有している会社で、香港ベースのものでございます。

私はアイルランド出身なのですが、アジアにおける見通しということをお聞きになって、ちょっと奇妙に思われるかもしれませんが、しかし私どもが今までにいろいろな方々から伺った、見聞きしてきたことを中心に、経験に基づいてお話したいと思います。

アジアにおける統合の見通しということですが、決して悲観論者にはなりたくないと思っております。ただ、井手審議官がおっしゃったように、EUと直接比較するというのは、ちょっと時期尚早かと思います。経済統合というのは、大いにこの地域においても進んでいるわけでして、アジア開発銀行が2003年に報告したところによりますと、アジア域内の貿易というものは、全体の貿易の中での54パーセントだということです。これはEUの水準よりも10パーセント少ないに過ぎないわけです。すなわち現在のアジアにおける経済統合の度合いというのは、マーストリヒト条約が締結された1990年台のEUの状況と等しいということになります。

一方、アジアの政治的な視点からの見通しというものを見ますと、まだまだ政治的に統合を果たすというふうな交渉をする、そういう成熟域には達しておりません。EUとはまったく違っているわけであります。まず、政治的な枠組みがここには存在しないということ。現在あるのは、ASEAN、APEC、昨日クアラルンプールで開催された東アジアサミット、そういった枠組みしかないわけです。しかも各国の政治体制というものも、それぞれ大幅に異なっておりまして、独裁政権があるかと思えば民主国家もあるというような、さまざまな状態になっております。従って、今回のクアラルンプールにおける東アジアサミットの結果が目に見える形で何か出てくるということは期待しておりません。悲観的になるつもりはありませんが、短期的には、まだ政治統合からはほど遠いと思っております。また、もう1つ指摘したい点として、日中韓の関係が、かつて無かったほど悪い状況になっております。従って、3カ国の関係改善のために何らかの手を打たないことには、長期的な統合に向けて、大きな障壁として立ちはだかると思います。私は決してエアラインの専門家ではありませんが、何かアドバイスを提供できるとすれば、まず政治的な枠組みが完了するのを待つのではなく、また、国レベルでのアジアの統合が達成できるのを待つのではなくて、あくまでも業界レベル、もしくは個別企業のレベルで、それを進めていく必要があるというふうに考えております。以上です。

(金本) オーム先生には、これから進むべき方向をお話していただきましたけれども、今の井手さん、マーフィーさんあたりのご意見だと、なかなか難しそうだというお話がありますけれども、では、どういうステップで、どういうふうに動いていけば、いい方向に行くかといったこと、あるいは今さっきのお話で言い残した事について、お話をいただければと思います。

(オーム) 私は、今までのパネリストがおっしゃったいろいろな見解に対して異論を持っているものではありません。ここでちょっと考えてみますと、米国の規制緩和というのは1978年からスタートいたしました。エアライン業界の当時の幹部は、例えばダイナミックな運賃設定であるとか、イールドマネジメント、もしくはコード・シェアリング、アライアンスと、いろいろな考え方を打ち出して、なんとか状況を改善しようとはしたわけです。ただ非常に競争環境が変わっていく現実にうまく対応できないまま、20年、30年と経ってしまったわけです。大手各社のCEOはまさに20年前にきちんと自分たちの宿題をして、そして対応策をとらないまま相変わらず高い運賃というものをユーザーに強いるような事をしてきたわけです。しかし結局は、マーケットを見れば、ローコスト・キャリアが台頭して、市場が自らそれを是正していったわけです。私が彼らに言っているのは、もう宿題をきちんとやらなくてはいけないと。もし当時、宿題をこなしていれば、ローコスト・キャリアが出てきても、きちんと対抗できるはずだったし、今日のようにアメリカのエアラインがほとんど破綻するような事はなかったはずだということなのです。ですからやはり、生き残りをかけた、ドラスチックな再編成というものが必要です。2週間前に、私はドイツの運輸研究所のご招待でスピーチを依頼されまして、行ってまいりました。私がそこで申し上げたのは、97年にはヨーロッパにおいて単一市場ができ、カボタージュが開放され、本当に競争が激化したわけですが、私はそのときから宿題をきちんとやっていかないと大変な事になると、警鐘を鳴らしてきたのです。このまま手をこまねいていないで、10年を無駄にするような事があってはならないと。あなた達がやらなければ、市場が勝手に改善策を打ち出していくだろうというようなことを言いました。実際に、ローコスト・キャリアがどんどん台頭して影響力を行使し始めております。また、BAを除いて、かなり競争も激化しておりますから、皆、企業が破綻して、破産者裁判所に訴えられる前に手を打たなくてはいけないという事を申し上げました。

さて、アジアの状況と言いますと、確かにまだ、統合には時期尚早かもしれません。しかし2国間ベースの交渉しか、交渉担当者がやってくれないならば、他に道はあると思います。ビクトル・ユーゴーが200年前に言った言葉を思い出してください。何百万の軍隊を力ずくで押しつぶす事はできるけれども、人の心から生まれた考え、アイディアというものをうちのめすことは決してできないということなのです。ですから、消費者とか市場が何かアイディアを持っていれば、それはどんどん広がっていきます。よい例が、ローコスト・キャリアの台頭です。今やヨーロッパにおいては、どの区間も片道50ドルで旅行することができますし、週末はコルシカに往復100ドルで旅をすることができると、こういう状況が現実に存在していると。これが、政府に態度の変更を余儀なくさせているわけです。ですからドイツ政府も、これに抵抗するのを放棄しております。アジアでもこういった状況がおきるのは、決して遠い先のことではないと思っております。もし政府が守ってくれないならば、消費者、人の手で守って、変えていけばいいと思います。政策を変更する前に、政策を変更して消費者にやさしい、企業にやさしい、そういった政策に展開していかなくてはいけないと思っております。こういったアプローチを取ることが、最も重要だと考えております。

(金本) どうもありがとうございました。日本でも往復100ドルに近いものは、実は探してみればありまして、グアムに3泊4日・ホテル代込みで3万円とか4万円で行けるというようなものがございます。そういう意味では、そんなに遠い世界でのことではないという事ではありますけれども、日本の場合、特に首都圏では空港制約がございますので、往復1万円でどれだけ飛ばせるかというと、そんなに飛ばせないということがあって、たぶんエアラインの方々は、まだそんなに心配していないのかもしれません。その辺について、岡田さんの方から何かありますか。

(岡田) オーム先生のお話の中にもございましたし、今の金本先生のお話にもありましたが、コスト競争力というキーワードで、今回の地域戦略と照らし合わせてみたとき、確かに日本の既存の航空会社は、コストを合理的に改善していくという努力が不十分なのかもしれませんけれども、実は例えば燃料にかかる税金とか、それから航空会社は空港を使わなければならないわけですが、例えば欧米、特にヨーロッパでは航空会社が戦略的に空港を選べるのです。例えばフランクフルトのルフトハンザが使っている空港からちょっと離れたところに古い空港があって、それが、ローコスト・キャリアが使っている空港です。

これを日本に置き換えてみますと、羽田の代わりに例えば立川、今、立川はもう空港ではありませんけれども、そういった、いわゆるエアラインサイドが選択しながらコスト追求できる、そのシチュエーションになかなかなっていないと。これは政策的に、今反省してももう遅いことかもしれません。それから、例えばこれはEUでは、エアバスが、自分たちが一番大事にしているヨーロッパというマーケットに、最も適した機材を、自分たちの手で作っているわけです。アメリカではボーイングとかダグラスがやっている。日本に目を転じますと、確かに下請けと言いますか、ボーイングとかエアバスに注文を受けて、日本の企業は飛行機を実際作っているのです。ところが、最後のアセンブリーはヨーロッパとか米国でされているわけでして、日本の航空会社がその飛行機、商売道具ですが、こういったものを上手く使って、世界と競争できる、実は技術的ポテンシャルはあるわけですけれども、民間としてのエアラインと、それから飛行機を作るインダストリーとがスクラムを組む状態になっているかというと、不十分だと思います。

それから空港、先ほどちょっとオーム先生がおっしゃいましたように、お客様に目を向けて、お客様に満足いただかなければいけないと。そうしたときに、例えば空港が本当にそういうふうな観点で設計されているだろうかと申しますと、日本の狭い国土の中で、非常に多くのお金と時間を費やして作っている空港が、どうしても見劣りがしてしまうわけです。そういった意味では成田とか羽田とか、関空とか、いろいろキーワードがございますが、私どもは2009年に再拡張される羽田空港が、近未来に残された重要なチャンスでございまして、こういったところで、若干出遅れている国際競争力を大いにリカバリーしたいと。つまり、私どもは汐留にあるシティセンターの39階のオフィスにおりますが、窓から見える景色はものすごく立派な、魅力的なマーケットなのですが、ここに住んでいらっしゃるビジネスマン、あるいは学生の方、住民の方が、羽田から、近いアジアに日帰りなり、一足飛びに飛んでいくようになると、実はカスタマーにとっても幸せだし、提供する我々にとっても、とてもコスト追求しやすくなるのです。そういったことを、いろいろ思っているところでございます。

(金本) どうもありがとうございました。羽田のところまで話がいきましたけれども、井手さん、これからの方向性、あるいはできること、できないこと、みたいなことについて、何かありましたらお願いします。

(井手) 岡田さんのお話、そして金本先生の、空港のキャパシティの制約の問題、そしてオーム先生がおっしゃった、コンシューマーフレンドリーな展開という、このへんのところをつなぐ話というのは、これはおそらく今日のアジアのインテグレーションの議論とはまた別の、インテグレーションが進もうが進むまいが、対策として必要な話だと思っています。結局、空港の能力が増えなければ、あるいは使い勝手のいい空港にならなければ、どのようなポリシー、制度論を構築してみても意味がないわけでございます。そういう意味で、先ほどもちょっとご紹介にありました、2009年度の、羽田の4本目の滑走路の完成、また成田空港では2 本目の滑走路をもうちょっと長くするという話が、やっと2005年の夏から動き始めましたけれども、これも2010年の初め頃には延長工事が完成するということで、首都圏についていえば、2つの空港のキャパシティの増加ということによって、利便性は今より相当高まるのではないかと。また競争も、今以上に促進できるのではないかというふうに、考えております。

(金本) どうもありがとうございます。空港については名古屋に新しい空港ができて、あまり皆さん気づいていないかもしれませんが、トヨタさんの国際部門が、東京にあったのですが名古屋に移されたといったことがございます。そういうことで、空港の利便性というのは、ビジネスのあり方に非常に大きな影響を与えるということもございます。そういった事も踏まえて、もうちょっと幅広い立場から、マーフィーさんにもう1度お願いしようと思います。

(マーフィー) 名古屋空港、中部空港に関してですが、山口さんとお話しておりまして、新しいのができたけれども、古いのはどうなったのかと伺うと、閉鎖するというようなことで、私はこれはずいぶん奇妙だと思います。日本においては空港能力がいつも不足だと言いつつも、新しいのができたら古いのは閉鎖してしまうというのは、何か理屈はあるのでしょうけれども、よくわかりません。批判ということで申し上げているのではありません。

旅客としての経験をちょっと申し上げますと、昨日香港を出発してこちらに参ったわけですが、ひとたびこちらに着いたときに、いろいろと旅客として問題を感じました。まず、香港では家からタクシーを呼んで、それからエアポートエクスプレスという、20分かかればすぐ空港に運んでくれる列車に乗りました。それは8分ごとに運行されておりまして、運賃もそれほど高くないというものです。そして、出入国も合理化されておりますので、居住者は5分ぐらいですぐ通れます。私は家を出てから1時間、もしくは1時間15分ぐらいには、もう機内に入っていたという状況です。実際の飛行時間は3時間17分なのですが、東京に着いてから、やれやれ、これから私の旅が始まるという感じを抱きました。ご存じのように、成田が1つのボトルネックとなっております。どうやって、この成田の状況を改善すればいいか、ここには想像力が必要だと思います。さきほど、羽田を拡張して国際空港化するというお話がありましたが、これはうれしく思いますし、地域の需要を満たすためにも有益だと思います。他にも地方都市として福岡、広島、仙台などがありますので、アジアからのフィーダー路線に直結して東京につなげるように何とかできないのかと。これによって利便性はよくなると思うわけです。コストを下げるということもエアラインにとっては必要でありましょう。旅客の中には、別にフルサービスを受けなくても、ノンストップのフルサービスでなくても、より安い旅をしたいと思う人もいるからです。

基本的には、障壁、ボトルネックというものを、どうやって減らしていけばいいかということです。昔、東京では市内のターミナルでチェックインすることが可能だったと思いますが、これもなくなったということで、多くの損失だと思っております。やはり私どもは、ターミナルで、よりうれしい、楽しい経験をしたいと思っておりますし、5年先、10年先に規制緩和がされるでしょうが、それを待つ間も、少しずつ、できるところからやっていければと思います。

(金本) ありがとうございました。時間もなくなってきましたので、最後に、オーム先生に、短く、これまでの議論を踏まえてお話をいただきたいと思います。

(オーム) ボトルネックというものが存在し、この地域には市場統合のための制度がまだ構築されておりません。また、業界もいろいろな口実を設けて、なかなか変革をおこなえないということです。しかし、パイオニアの人々がいずれ大きな変革を政策面で起こすことを期待したいと思います。そもそもEU が何故今存在するかということです。かつてはEUを統合する上でいろいろ反対意見もあったでしょうけれども、決意したから可能になったわけであり、旧ソ連邦の国も含んで25 ヶ国が、今や統合されているわけです。それは彼らが痛みを伴う決断をしたからであったというふうに思っております。東アジアに同じことを期待しているわけではありません。政治的、歴史的ないろいろな理由が異なっているからです。ただ、各国貿易分野というのを見ますと、これはもうビジネスの世界ですから、自由化が必ず可能なはずなのです。日本のエアラインも生き残るためにはアジアのエアラインとして生き残る他はないと思っております。私は3、4年前、オランダの経済省の顧問をしておりましたが、KLMはいつの日にかヨーロッパのエアラインとなるだろうと言いました。オランダのエアラインとしては存続しないだろうと。というのは、オランダには国内市場が存在しないからです。アジアの市場というのは、これからますます大きくなっていきますし、その大きな市場というのは、日本の市場をはるかに凌駕するものになると思っております。従って、この大きな全体像を思い描いて、その方向に行かなくてはいけません。そのためには自国の市場を開放し、他の市場、開放された市場と交換していくということが必要であります。これが東アジアで企業が立地する上での最適化にもつながるし、旅客の利便性も高まり、域内の経済にも寄与するということです。

もちろんマーフィーさんが言ったような、少しずつ小さな事からやっていくということももちろん重要です。政府や空港当局が、いろいろな手を打っておられるわけです。マーフィーさんがおっしゃったように、香港は小さな国ですから、旅客サービスの向上というのもやりやすかったと思います。例えば中国と香港の1 人あたりの平均所得を見ますと、香港のほうが30倍も高いわけです。そういった中で、価格差を克服するために何をしていたか。香港の方は、中国の河南のほうから人をなるべく香港の方に引っ張ってくるため、利便性を向上したわけです。例えば香港空港当局のデイビッド・ペンさんから聞いたのですが、1日に100台のバスを河南のほうでしたて、バスが香港側の保税地域に旅客を運び、必要なチェックインや入国管理を全部向こうですませてしまうのです。また、珠江デルタの方にもスピードボートを走らせ、珠海のほうから人を運び、しかもやはり香港の方の保税地域に人を運んできて、簡単に入国管理をすませてしまう。香港と中国のコスト差は大きなものがありますが、こういった手段で克服しているわけです。ですから、少しずついろいろな事をやることは、もちろん重要です。

しかし、忘れてならないのは長期的な大きなビジョンということです。痛みを伴う決断というものは必要だと思います。

(金本) どうもありがとうございました。時間もだいぶ超過しておりますので、最後に一言だけ。特にアジアのこれからを見たときに、国際交通システムをどうしていくかは非常に重要な課題であるということでございます。これについては、国家間の関係もございますので、様々な難しい問題があるということですが、われわれの、公共政策大学院としては、こういった研究ユニットを通じて、アジアのプロの方々が討論できるプラットフォームを作っていきたいと思っています。調査研究を進化させるということと同時に、専門家間の対話を通じてアジアの政策の方向、アジアのコンシューマーのために、あるいはインダストリーのために、いい方向に持っていくことに貢献したいということでございます。そういうことで、始まったばかりですが、これから頑張っていきたいと思いますので、ご支援、ご協力のほど、お願いいたします。以上で私の話を終わりにして、進行の方に回したいと思います。(拍手)

閉会

(司会) パネルディスカッションの参加者の皆様、ありがとうございました。実はできれば質問の時間も取りたいと思っていたのですが、次に授業がある先生方もおられまして、そろそろこのセミナーは終了する必要がございます。ただ、冒頭、森田委員長からお話いたしましたように、6時半から山上会館、これは三四郎池の向こう側にございますけれども、そちらの方でこのITPUの設立記念祝賀会を開催いたしますので、是非お越しいただければと思います。ITPUといたしましては、ユニット長の金本先生はじめ、森田先生、伊藤隆敏先生、大橋弘先生、城山先生、あと私と、政策研究大学院の吉田先生をメンバーといたしまして、またテ・オーム教授のアドバイスもいただきながら活動していきたいと思っておりますので、是非よろしくお願い申し上げます。最後に、もう1度パネルディスカッションの皆様に拍手をいただきまして、終了させていただきます。(拍手)

以上をもちまして、第1回のセミナーを終了させていただきます。どうもありがとうございました。