留学生だより
前田陽 (to LKY)
はじめまして、前田陽です。在籍2年目の最終学期をシンガポール国立大学リークァンユー公共政策大学院で過ごしました。1学期間という短い留学で得られるものは多いのかと心配して旅立ちましたが、結果として23年間の人生のなかで一番濃い時間を過ごすことができました。
Lee Kuan Yew School of Public Policy (LKYSPP) の魅力
LKYSPPではExercising Leadership, Negotiation and Conflict Management, Public Policy and Management in Singaporeの3つの授業を履修しました。東京では履修できない授業をと思いソフトスキルの授業を中心に履修しました。また、せっかくシンガポールにいるのだからということでシンガポール関連の授業を一つ履修しました。
Exercising Leadershipの授業はおもにディスカッションやロールプレイ方式でした。クラス外でも毎週1回小グループで集まりそれぞれのリーダーシップ体験を発表し、批評する機会も提供されました。リーダーシップの1回目の授業では「この授業の評価方法を考えなさい」といきなり先生から振られ先生は退出。国籍、人種などすべてが違う環境のなかでいかにリーダーシップを取ることが難しいのかまず痛感させられました。その後も旧国会議事堂を借りきって、履修者それぞれ「3分の時間で自分を表現するスピーチ」をしたり、ロールプレイでは「沈没間際の船に乗っていたとき、グループの6人のうち2人しか助からない。誰を助けるか、そして誰を殺すか議論するという過酷なトピックでも議論をしなければならないなど、かなり授業としては密度が濃くそして苦しかったなというのが印象です。でもこの授業を履修したことでトラウマを一つ克服することができましたし、なにより多くのディスカッションの機会を通じて英語でのディスカッションに自信が持てるようになりました。
Negotiation and Conflict Managementの授業も大半がロールプレイ形式でした。土地紛争交渉、都市開発交渉、環境問題の政府間パネルなど分野は多岐にわたっておりました。交渉の授業は東京大学で履修したものとかなり似ていましたがインド人や中国人などタフな相手と交渉訓練をできたのは良かったと思います。
Public Policy and Management in Singaporeはシンガポールの省庁で筆頭書記を歴任した教授による授業でした。シンガポールの行政現場の話を聞くことができたのはもちろん、マクロな視点にたってシンガポールについて理解する機会となりました。私としてはこの授業を通じてシンガポールという国について知ることができましたし、経済成長著しい国の姿勢や価値観に触れることができとても満足度の高い授業でした。
私の履修した科目に関していえば授業の難易度は日本と大差がなかったかと思います。しかし日本で学ぶのとは異なる点が四つありました。
第一に学生のほとんどが社会人学生であるという点。LKYSPPで学ぶ学生のほとんどが公務員、ジャーナリスト、NPO職員、国際機関職員などの出身であるということもあり教室内での議論はそれぞれの体験を踏まえたうえで行われていました。議論は教室を飛び出し、考えた政策をどのように実践していくのかといったところまで踏み込んだ議論が展開されていました。
第二に教室内が真にグローバルである点。LKYSPPはASEAN諸国からだけでなく、欧州、アメリカ、アフリカ、アジアと世界中から学生が集まっており、在籍学生の国籍は50を超えていました。このような背景もあり、授業内ではそれぞれの国の立場から見た視点を各学生が紹介してくれました。ひとりひとりの学生がまるで国を代表するかのように議論を行っており、先生からだけでなく学生からの学びを多かったのが印象的です。
第三に学びが教室内で終わらないこと。講義が参加型であることはもちろんですが、フィールドトリップも充実していました。特にリーダーシップの授業では旧国会議事堂を貸し切り、議場でスピーチをするという貴重な経験をしました。さらに、教室内で学びが終わらないという点に関してはもう一つ意味があります。シンガポールは非常に小さい国ということもあり政治・行政・経済の変化をタイムリーに体感することができます。政府が政策を打ち、その変化を目の当たりにできる。これは重層化し複雑化した日本ではなかなか得ることのできない経験でした。
最後にLKYSPPの学生ほとんどがキャンパスから徒歩10分程の敷地にある専用寮に住んでいるという点。もちろん授業も勉強にはなりましたが同じ敷地内に150人程の同級生が住んでいれば夜も皆で集まります。こうした食事会や飲み会を通じてそれぞれの国について学び議論をし、文字通り朝から晩まで充実した留学生活を送ることができました。
シンガポール生活の魅力
LKYSPPが素晴らしい学校であったことはもちろんですが、シンガポール生活自体も非常に充実していました。おそらくシンガポール留学ならではの特徴は二点あると思います。
一点目としては人との出会いが多いということ。アジアのハブとして機能するシンガポールですが非常にコンパクトな国です。世界中から成長センターシンガポールを目指して来るのですが、こうした活動的な方々とお会いする機会がたくさんありました。通常であれば私のような一学生が会うことのできるような方々ではありませんでしたがシンガポールに留学している珍しい日本人ということ、そして社会人学生の日本人先輩方が紹介してくださったということもあり学外での出会いも非常に充実し学び多かったです。
第二に周辺諸国への旅が安価で出来るということ。東南アジアでは格安航空会社の航空網が非常に発達しており、日本では考えられない料金で他国を訪問することが可能です。留学中にさまざまな国の文化、社会、経済に触れることができ、自分の目で見て周辺諸国の状況を学ぶことができました。こうした旅での出会いや経験はもしかすると留学生活で得た一番の収穫であったかもしれません。
シンガポールを留学先とすること
私はシンガポールを留学先として選びましたが、当初東南アジア地域には一切の興味がありませんでした。さらに、開発や国際協力といったことも全くの関心外でした。幼少期にヨーロッパに住んでいたということ、またアメリカはいずれ住むだろうという考えから、消極的にシンガポールを留学先として選びました。そのような後ろ向きな理由で選んだ留学先でしたがシンガポールは公共政策を学ぶという点で良い条件がそろった留学先だったと思います。シンガポールがコンパクトな国であるからこそ公共政策の現場を見ることができました。また、東南アジアの中心として確固たる地位を築いたシンガポールは多くの興味深い人材を引き付けており、国会議員やジャーナリスト、経済アナリストなどの著名な方々と食事をする機会にも多く恵まれました。この点に関しては社会人学生の先輩方が出会いの機会をたくさん設けてくださいました。
こうした出会いの一つをきっかけにしてプレアビヒアというカンボジアとタイの国境紛争地帯にてまちづくりに携わる機会がありました。この地にある世界遺産プレアビヒア寺院をカンボジア政府としていかに観光資源として活用していくのか考え、政府とともに実践していくのがお手伝いさせていただいたNPOの役目でした。プレアビヒアの特異性はタイの政治状況に地域の安定が大きく左右される点、現在もタイとの国境紛争地帯であり世界遺産に軍隊が常駐しているというところにありました。
微力ながらもこのプロジェクトに参加させていただいたことで、紛争地域や地方市町村において持続可能なまちづくりをどう行っていくのか学ぶことができました。そして開発支援が日本にとっても大きな学びの場となるのだと実感しました。詳細に関しては述べることができませんが、プレアビヒアのまちづくりのアイディアは日本の地域活性化にも応用できるものだなと感じました。
さいごに
留学を考えている方も、そして考えていなかった方もシンガポール留学という選択を頭の片隅に入れておいていただけたらと思います。公共政策大学院での最終学期をシンガポールで過ごすことができて良かったと心の奥底から思う充実した留学生活でした。
ミャンマー・バガンにて民家訪問
Cultural Night
Public Policy and Management in Singapore
タイカンボジア紛争地帯プレアビヒアにて。GraSPPの友人たちと再訪問
Exercising Leadership 旧国会議事堂にて
クラスメイトのみんなと交流会
国際色豊かな友人たちと
大学院生徒会主催のハロウィンパーティー