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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

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経産省官僚から、人を育てる大学人に。「プラグマティック」に地球の未来を考える

有馬純 教授

小さい頃から本を読むのが好きで、ルパンやホームズのシリーズ、少年少女文学全集など、学校の図書館にある本を片端から読みまくっていた。高校時代は、大学で西洋史を学んでいつかはそこで教鞭をとりたいと考えたが、「好きな文学や歴史で食べていくのは大変」と、東大文科二類に進学し経済学部を選択。いつしか「国のために働いてみたい」と思うようになり、守備範囲が広くいろいろな経験ができそうな通商産業省(現・経済産業省)に入省した。

以降、国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、経済産業省資源エネルギー庁国際戦略担当参事官、大臣官房審議官地球環境担当、日本貿易振興機構ロンドン事務所長などを歴任。異動が多い官僚には珍しく環境・エネルギー畑のスペシャリストであり、計15年弱、4度に及ぶ海外勤務を経験した国際人でもある。「上がそのように意図して育ててくれて感謝している」と振り返る。

2015年8月から「研究休職」の形で東京大学公共政策大学院に出向し、いわゆる「実務家教員」として環境・エネルギー政策の授業を受け持つようになった。新たなフィールドで人を育てることにやりがいを覚え、2018年春に経済産業省を辞し、現在は正式に東大公共政策大学院の教授となっている。

そんなキャリアの中でもハイライトといえるのが、計14回参加した気候変動枠組条約締約国会議(COP)における交渉だ。2016年のCOP16では首席交渉官として参加し、「日本はいかなる条件であっても京都議定書の第2約束期間(2013年以降)には参加しない」との立場を初日に表明した。

世界の温暖化対策交渉においては、CO2排出削減努力を一部の先進国に押し付ける形で進んできた経緯があり、中でも「京都議定書」は米国が離脱し、中国等の途上国は義務を負わず、EUは追加的努力なしで目標達成可能で、日本だけが負荷を担う内容となっていた。もともとエネルギー効率が高い日本がさらに追加削減をしようとすれば莫大なコストがかかり、メリットは少ない。

その一方で「日本生まれの京都議定書を守れ」という情緒的な意見は国内でも根強く、この議定書の存在に日本は長らくがんじがらめになってきた。しかし当の日本がそれにノーを突きつけたことが契機となり、世界の温暖化対策は「すべての国が参加して頑張る」というフレームワークに移行することになる。

温暖化交渉の場は互いの国益がぶつかり合う「武器のない経済戦争」であり、それぞれが課題を抱える中で、国としてどのようにコミットするか、建前と本音が異なるのも大きな特徴だ。
外国は本当にしたたか。日本が京都議定書に縛られずに済むようになって本当によかった。国を代表する立場で、首席交渉官として最後まで意志を貫き通すことができたことは自分の誇りである。

国益を守りながら、地球全体の環境問題をどう解決していくか、持続可能でバランスのとれた政策を考えていく必要がある。官僚時代とは異なる「自由な立場」で、自らの実務経験からくる現場感覚を踏まえ、「現実を見据えた政策」を提言していきたい。

自らを「プラグマティスト(実用主義者)」と語り、それゆえ「カッコいい話だけに飛びつくわけにはいかない」と笑う。国を背負い各国と渡り合ってきたからこそ、日本という国の美点も弱点もよく見える。

真面目さと、信頼を重んじる国家の品格をいつまでも大事にする国であってほしい。国の力を決めるのは人材なので、日本をリードし、国際的にも活躍できる活力のある人材育成に貢献したい。

日本の未来が明るければ、地球環境の未来もきっと明るいに違いない。

(「UTokyo Voices No. 47」より)