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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

GraSPPers Voice

激動の社会と人との繋がり

松浦果穂 (from Japan)

社会人をへて、GraSPPへ

学部生の時から途上国の開発、特にインフラ分野に関心があった私は、学部卒業後、三菱重工業株式会社へ入社し、発電インフラ関連の円借款プロジェクトに従事していました。途上国への出張の機会もあり、社会的インパクトの大きい事業に携われる充実感を得る一方、途上国政府の方針変更や政治的駆け引きに翻弄され、影響を受けることも多くありました。このような経験から、合理的な政策形成の必要性を強く感じ、会社を退職し公共政策大学院に入学しました。

コロナ禍の影響が残る大学院での学びは、私自身が学部生だったころと大きく環境が異なり、初めはその違いの大きさに戸惑いました。他方、実務経験や教育・研究実績が豊富な先生方のもと、公共政策を体系的に学ぶよい機会となり、私自身の関心が高いEvidence Based Policy Making(EBPM)やデータ分析の授業を通じて政策形成の知見を深めることができました。また、国際プログラム(英語)の授業を積極的に受講し、アジア諸国の行政組織から派遣されている学生や、日本やアジアの政策に関心がある欧米諸国からの学生など、様々なバックグラウンドを持つ留学生との交流を通じ、自身の世界が広がっていく感覚を持ちました。

SIPAへの留学

GraSPP入学後、国際開発の分野の知見をさらに深めたいとの想いから、ダブルディグリープログラムに応募をしました。かねてより国際機関での政策形成に関心があり、その分野での専門家が多く集まり、Capstoneプロジェクトを通じた実務的な学びの機会に期待し、コロンビア大学国際公共政策大学院(SIPA)を選択しました。

留学経験がなかった私にとって、世界中からエリートが集まり、クラス内外で活発なディスカッションを行う様子や、多様性を重んじるニューヨークの大学院での学びと生活は新しい発見・挑戦が続く毎日でした。特に様々な場面で、個々人の価値と大切さが語られる場面が数多く印象に残っており、今後、自分とは異なる環境で育った人々と共に働こうと考えている私にとって、とてもよい気づきとなりました。授業では国際連合や国際NGOでの経験が豊富な教授陣のもと、開発現場において使われている手法を学び、Capstoneプロジェクトでは国際連合児童基金(UNICEF)本部のプロジェクトに携わり、気候変動や紛争等の出来事が子どもたちに与えるインパクトを調査しました。

SIPA在学中のインターンシップ

SIPA在学中には、国連日本政府代表部の社会部(人道・人権分野)でインターンシップの機会を頂きました。外交交渉の最前線に立ち、とても有意義な経験となりました。ロシアのウクライナ侵攻、タリバン政権による女性の権利抑圧などの喫緊の課題を取り上げる安全保障理事会、ポスト紛争国の人権状況を継続してモニタリングする会議、先住民族や女性の地位・権利向上を目指す総会セッションへの出席などを体験する機会を頂きました。欧米諸国の外交官・専門家が主張する人権・人道の在り方を聞きながら、ダブルスタンダードの実態を目の当たりにし、政策形成の実践の難しさを肌で感じました。他方、政治的関心や歴史的背景・思想が絡む複雑な情勢の中、非西洋の先進国である日本の立場のユニークさも実感することができました。多数のプレイヤーが絡み合い、絶妙なバランス感覚の中で進む国際交渉の現場を見て、最終的には政策には人と人のつながりの中で人々のために作られていくものであることを再認識しました。

修了後の展望

GraSPPとSIPAでの経験は、入学前には想像していなかった出来事の連続でしたが、仲間の学生から常に刺激を受け、切磋琢磨した体験はかけがえのないものです。現在私はコンサルティング会社で、主に国際開発を担当するチームに所属しています。かねてより関心のあるエネルギーインフラの分野、気候変動対策と経済発展を同時に達成するLow Carbon Developmentの分野で経験を積みたいと考えています。長期的には、国際機関で働き、新興国政府の政策形成支援に携わることを目指しています。

わずか2年3か月の大学院生活の間も、コロナ禍が終息すると人々の対面活動が徐々に再開する一方、国際的な紛争が発生し、過激的な言論による社会の二極化が進行しました。また、人々が生成AIに気軽にアクセスし、利便性を享受できるようになる一方、利用規制の要否が議論されています。目まぐるしい変化、複雑化する課題、多様化する社会において、政策形成は一縄筋には行きませんが、GraSPPとSIPAで得られた最大の財産である先生方や友人とのつながりは今後の糧になると信じています。人々の目指す豊かさとは何かを常に模索しながら、政策の大切さとそれに携わる者の責務を心に刻み、今後も邁進していきます。