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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

新入生の皆さんへ 2025年04月01日(火)

[:en]Dean's message[:ja]院長メッセージ[:]

2025年4月1日

この度は、公共政策大学院へのご入学おめでとうございます。

この4月には専門職80名(うち、Double Degree受入3名)、博士課程2名、交換留学生4名の入学者を迎えることができました。

皆さまをお迎えし、修了されるときにはどのような人材に育ってほしいかのイメージをお話しさせていただきます。公共政策大学院は昨年度創立20周年を迎え、そのミッションの再定義を行いました。教職員や学生を交えて議論を行った結果、私たちのミッションを公共政策の改善だと定義しました。これを実現するために、教育面では公共政策分野におけるリーダの育成を目指すことと、研究面では科学的な研究を通じてより良い公共政策を提案することとしました。

公共政策にかかわるキャリア展開の仕方としては、霞が関や自治体、国際機関や公的金融機関に勤めるという伝統的な方法がありますが、近年は環境問題・地域社会の問題・グローバルサウスの経済問題といったさまざまな問題の解決にあたり、公的セクターと民間セクターの協働つまりPublic Private Partnershipが重要になっています。このことを反映して、コンサルティング・ファーム、シンクタンク、インフラ系企業、エネルギー系企業、金融機関など民間の様々な分野に進む人が増えました。
また、博士課程の修了者には伝統的なアカデミアに進む方の他に、国際機関をはじめとする実務の世界に直接進む方も徐々に増えてきました。このように多様な進路に進む人々を教育しているのは専門職大学院としての公共政策大学院の特徴です。どのようなセクターに進むにしても、皆さんには東京大学の大学院の修了生として若い段階からリーダーシップを発揮することが求められます。

どのようなセクターに進むにしても、東京大学の卒業生として大半の人々にはごく自然に国際的な業務にかかわることが期待されています。実をいうとこのように自然に国際的な場面で仕事ができる人々の育成という部分が、東京大学あるいは日本のトップレベルの大学がもっとも失敗してきた部分で、日本の大学教育の最大の課題といってもよいと思います。
スイスの有力ビジネススクールIMDが発表する2024年の世界競争力ランキングによると「有能な管理職の厚み」に関しては67か国中65位、「企業ニーズを満たす語学力」に関しては66位というさんさんたる結果になってしまっています。個人的な経験でも国際会議に出席して全く発言をしない省庁幹部にたくさん出会います。こういうことを言うと、英語ができればいいわけじゃないという風に反発する人がいますが、そんなのは当たり前の話で、英語くらいできないと東大を出ている人に期待されている仕事はまともにこなせないというのが当たり前なのです。

さて暗い話になってしまいましたが、皆さんにとって良いニュースは、公共政策大学院はこの東京大学が抱えている問題を最も先鋭的に乗り越えようとしている教育機関だということです。ただ、私たちが提供している教育機会のメリットを最大限に享受していただくためには、皆さんのマインドセットを大きく変えていただく必要があります。
まず、日本の中でそこそこやれればいいという考え方は変えたほうがいいと思います。今後、日本は人口が減少していきますから、若い人たちの競争は緩くなることが予想されるわけですが、日本全体が国際社会でのプレゼンスを徐々に失っていくことが十分に考えられます。成長が著しいアジア、アフリカ、南米といったグローバルサウスの国々も含めた諸外国と上手に付き合っていくことが不可避になっていくと思われます。公共政策大学院はまさにそのようなグローバルな舞台でリーダーシップを発揮できる人々を育てたいと考えているのです。

さて、国際社会の中に出た時に適切なリーダーシップを発揮するために必要な要素とは何でしょうか。
これは3つあると考えられます。それは、専門分野に関する確たる知識、リーダーシップや交渉といったソフトスキル、多様な国籍の人々がともに働く際に必要な国際共通言語としての英語力です。この三つが掛け算されて国際社会においてのリーダーの資質が決まります。
まず専門分野の知識ですが、政治学や経済学、国際関係論といった専門分野の知識を身に着けて、それらのディシプリンに基づいて目の前の問題を考え、その考えを他者と共有できるスキルが必要になります。これらのディシプリンに基づく考え方は、国をまたいでも共通する論理的な考え方の基礎となるもので、これが根本的なスキルです。
その上でチームで働くとはどういうことかを学ぶリーダーシップや、チームビルディングの際に必要になる交渉学といったスキルがあると、自分がやっている仕事をメタ視点でとらえることができるようになり、他者と協働する際にどのような配慮が必要なのかを理解できるようになります。
最後に多様なバックグラウンドの人と働くためには英語力が必要になります。これらのスキルをバランスよく身に着けることができれば国際的な場面でもリーダーシップを発揮できる機会が出てきます。スキルというのは生まれつきの能力とは違って、育成できるものです。
そのため、皆さんには公共政策大学院が提供する様々な機会を有効に活用して、このようなスキルを身に着けて修了していってほしいと思います。

公共政策大学院は半分が留学生かつ授業の半分が英語であり、その中でも英語でのディスカッションやプレゼンテーションが重視される授業が多数開講されています。また、日本語と英語での様々なセミナー、国際機関でのインターンシップ、交換留学、さらには2年半の期間のうちに外国の大学の修士号もえられるダブルディグリープログラムが提供されています。
ダブルディグリーは世界の名門校9校と行っており、学期単位の交換留学も含めれば世界の15校と協定を結んでいます。これらの機会をフルに活用できるかどうかで、公共政策大学院が提供する教育の付加価値は大いに異なってきますが、これらの機会を享受しようと思えば、英語力を身に着けるしかありません。皆さんの中でTOEFLが100点に達していない方がいらっしゃいましたら、まずは試験勉強からでいいので英語力を身に着けて、公共政策大学院が提供する様々な教育機関を享受できるようにしてほしいと思います。そのうえで、英語でディスカッションをし、プレゼンテーションをするような授業に最後までくらいついてほしいと思います。
日本でこれまで教育を受けてこられた方にとっては苦しいし、プライドが傷つけられることもあると思いますが、皆さんは高い資質を持った人々として選抜されてきたわけなので、あきらめずに頑張ってほしいと思います。このハードルを乗り越えずに修了することもできるかもしれませんが、どのような進路に進むにしても、遅かれ早かれ皆さんはこの壁に直面するはずです。どちらにせよやるのであれば、早くにやったほうが将来の幅が広がります。

さて、専門分野の知識、ソフトスキル、英語力の3つをバランスよく身につけて、修了してほしいということをお伝えしましたが、なぜ皆さんがその様な人材になる必要があるかということについてお話をします。すこし大げさな表現になってしまいまいますが、世の中には解決しないと、人類が滅亡しないまでも、多くの人々が不幸になってしまう社会課題が多数あります。地球温暖化、関税の引き上げや戦争や地域紛争に代表される国際社会の分断、先進国における人口高齢化と財政の維持可能性といった問題です。これらの問題を解決しようとすると国際協調が不可避となり国際的な舞台で仕事ができる人材が必要なのです。
これらの問題に直面した時に、大多数の人々は誰かが問題を解決してくれると考えます。その一方で、ごくまれな人は自分が解決しなくては誰が解決するのだろうかと考えます。20世紀の後半に活躍したアメリカの哲学者・教育学者・宗教学者であるウィリアム・ジェームズ(William James)はこの二つの態度の間に人類の道徳的進化の全過程が横たわっているとしました。考えてみると、公共政策大学院はこのまれな人々を育てようという野心的な企画の産物ですから、皆さんに求められるスキルの水準も高くなるのです。この期待に応えてくれるように皆様がスキルの蓄積をしてくれることを心から願っています。

これをもってお祝いの言葉としたいと思います。皆様、改めてご入学おめでとうございます。ご健勝を心からお祈り申し上げます。

東京大学公共政策大学院 院長

川口 大司