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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

第83回公共政策セミナー(欧州復興開発銀行(EBRD)総裁Sir Suma Chakrabarti講演)概要 2016年04月01日(金)

概要報告 , 公共政策セミナー

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2016年3月14日、ダイワハウス石橋信夫記念ホールで開催された第83回公共政策セミナー(EBRD総裁Sir Suma Chakrabarti講演)の概要を報告いたします。

初めに

みなさん、こんにちは。
今日は、お忙しい中をご出席いただき、まことにありがとうございます。

欧州復興開発銀行(EBRD)総裁のチャクラバルティと申します。
アジア大陸や他の地域の人々の生活向上のために私たちが手を取り合って何をしていけるのかについて、こうして皆様の前でお話できることを光栄に思います。

城山教授を始めたくさんの方々のご協力を得てこの機会が設けられたことに、心から感謝いたします。

25周年

まず最初にお訊きしますが、ここにご出席の皆さんの平均年齢は何歳でしょうか。

25歳前後? でしたら、「おめでとう」と言わせてください。25年前に設立された欧州復興開発銀行と同い年ということになりますね。
正確には、来月が25周年記念です。

EBRDは、冷戦終結後、旧ソ連の一部であった国々と中東欧諸国を支援することを目的として、設立されました。

日本はEBRD創立メンバーの一国として、設立当時から深いかかわりを持ってきており、67の加盟国の中でも最大出資国のひとつに数えられます。

ところで、「欧州復興開発銀行」という名称の「欧州」の部分は誤解を生みやすいと、私は思っています。
というのは、出資するのは「欧州」の国に限りませんし、融資を受ける国もヨーロッパ、アジア、アフリカにまたがっています。

日本がこれまでにEBRD基金に提供した多額の資金は、様々なプロジェクトを遂行していく上で重要な役割を果たしてきました。また、日本はEBRDとの二国間共同出資額においても、加盟国の中で上位に位置します。

ここにご出席の皆様の中から、将来EBRDと日本の関係強化に貢献される方が出てくることを期待してやみません。

それについてはまた後で述べることとし、EBRDについてもう少し詳しくお話ししたいと思います。

EBRD‐欧州復興開発銀行

欧州復興開発銀行は、世界銀行やアフリカ、アジア、南アメリカ諸国で展開している他の銀行と同じく、多国間開発銀行です。

EBRDを所有するのは、加盟国の65カ国政府および欧州連合と欧州投資銀行です。

しかし、EBRDが他の多国間開発銀行と大きく異なる点が3つあり、それは、当銀行が「冷戦」が終結した年に創立されたという歴史的背景と関係があります。

まず、私たちは、複数政党制民主主義、政治的多元主義および自由市場経済の原則を厳守している国でのみ支援活動を行います。これほど明確な政治的・経済的理念にのっとって業務展開している多国間開発銀行は他にはありません。

ここで注目していただきたいのは、国の進行方向です。ある国が私たちの支援を受けるためには、自由市場、民主主義、多元主義に向かって前進していなくてはなりませんが、最終目標(それが民主主義や自由市場的に何を指すにせよ)に到達している必要はありません。

次に、民間企業への融資額がEBRD総融資額の60㌫以上であることが、規約で定められています。現時点で、この数字は80㌫です。

民間部門に関し、開発目的でこれだけ深い実践知識を有している多国間開発銀行は、世界銀行グループの一機関である国際金融公社を除いては、ほかにはないと言っていいでしょう。

そして3つ目のポイントは、企業に対して融資を行い、そのプロジェクトを後押しするという点です。

他の多国間開発銀行と異なり、EBRDは財政赤字や経常赤字を埋めるための融資をしませんし、関わっているプロジェクトを熟知しているため、産業部門や企業に対する知識が豊富です。

創立当初は、中東欧諸国や旧ソ連の指令経済国を支援対象としていました。

しかし、EBRDの支援を受け、それらの国々が経済体制転換を実現させたため、他の国々も私たちからの支援を望むようになりました。
EBRDの出資諸国もそれに賛同したのです。

今では、25年前の創立当時に支援活動を開始した国々を始め、モンゴル、トルコ、モロッコ、チュニジア、エジプト、ヨルダンを含め、36カ国に対して融資を行っています。現在、キプロスとギリシャも一時的な支援対象となっています。

私たちが支援活動を行っている地域の地図をご覧になると、トルコ、中央アジアそしてモンゴルに至るまで、アジア大陸で大きな存在感を示していることがお分かりでしょう。

四半世紀前、私たちはパイオニアでした。以来、「開発」に対する考え方を徐々に変えることに貢献し、様々な重要分野でリーダー的存在となっています。
以下はその例です。

  • 民間部門が開発目標に到達するためのレバレッジ
  • 持続可能なインフラを築くための金融商品を提案
  • 中小企業を支援するための長期的プログラム-雇用を創出し、技能を高め、成長を促す
  • 再生可能エネルギー、廃棄物の減少、二酸化炭素排出量の削減
  • 民間部門のプロジェクトを通してエネルギー保障を促進し、助成金・貸付金を組み合わせた融資

私たちは、海外直接投資と資金・個人資産を新興市場に向ける強力な触媒と言ってもいいでしょう。

さらに、女性や何らかの理由で就労できない人たちを労働市場や金融システムに組み込むために、尽力しています。

私たちはまた、オープンで持続性のある市場経済の発達を推進しながら、当該国の役割についてたくさんのことを学んできました。

現在、民間企業を中心とした融資および開発目標の実現と、支援活動対象国の政府との広範囲な政策対話を、同時進行させています。

投資環境を改善してガバナンス水準を上げることが経済成長には不可欠であることを、私たちは認識するに至ったわけです。

これらは、現場に大きなインパクトをもたらすでしょう。

昨年は新興市場にとって困難な状況であったにもかかわらず、EBRDによる同市場への融資額はこれまでで最高の94億ユーロにのぼり、381の個々のプロジェクトを支援しました。

また、支援する数々のプロジェクトへの資金調達のために、商業銀行シンジケートローン23億ユーロを確保したことも特記に値するでしょう。

2015年には出資諸国が次に述べる三要素戦略(threefold strategy)を承認し、将来起き得る様々な状況に太刀打ちできる確固たる基盤ができました。

今後は、投資環境の改善およびより良い社会一体性・包括性に向けた政策をサポートすることで、移行レジリエンスを強化することに焦点をあてます。

経済と金融とインフラの繋がりを堅固なものにするための投資をサポートして、融合を促進する意向です。

また、世界かつ地域の課題である食料品の確保や気候変動問題にも対処します。

その一環として、2020年までに気候変動金融がEBRDの年間投資額の40㌫にまで増えるとの予測に鑑みて、「グリーン経済への移行Green Economy Transition」を立ち上げました。

また、「男女共同参画推進に向けての方策Strategy for the Promotion of Gender Equality」を、昨年初めて適用するに至りました。

男女平等という点にどうしてそれほど心を砕くのか、ご説明します。

理由はたくさんありますが、そのひとつとして挙げられるのは、EBRDが私たち自身および関与する国々のために掲げる目標の多くは、男女共同参画を同時に推し進めることで、実現可能となるからです。

日本の学生たちとEBRD

ここで皆さんの出番です。
今お話した輝かしい業績は、ロンドンの本社や各国で職務に就いている才能と実力を兼ね合わせたスタッフなしでは、とうてい成し遂げられなかったことです。

今年初めのEBRDの従業員数は2,400人でした。
スタッフの出身国は65カ国にのぼり、EBRDそのものが多文化社会なのです。

確かに、EBRDは銀行です。けれども、単なる銀行ではないということは、明確にご理解いただけたと思います。

財務結果が重要なのは言うまでもありません。
しかしそれより大事なのは、人々の生活を向上させるための融資、という点です。

私たちは、銀行家、法律家、エコノミスト、リスク専門家、調達専門家を探しています。
公共政策の専門家や、小企業部門助成のために尽力できる人材も必要です。
そのほか、多くの異なった分野で専門知識を発揮する人たちが求められています。

ですから、出資国として重要な役割を担う日本から、たくさんの求職問い合わせがあることに期待をかけているのです。

私たちは、日本の出資者にとって良きパートナーであると自負しています。

昨年度末における日本とEBRDによる共同融資額は80億ユーロを超え、内訳は、EBRDが45億ユーロ、そして日本側が35億ユーロとなっています。

この二国間共同融資を部門ごとに見ますと、エネルギー部門が30億ユーロ強、産業・商業・農業関連事業(アグリビジネス)を併せて20億ユーロ強、インフラが15億ユーロ、そして金融部門が10億ユーロ強です。

これからは、国際貿易、投資および調達などの部門において、日本との連携をさらに強化したいと考えています。

中でもより緊密な関係を築きたいのは、法人や金融機関です。

実は、今日、日本で最初のEBRD拠点となる東京事務所を開設しました。これを期に、日本とのビジネス機会が増大することを期待しています。

こうして日本との絆がより深まっていく中、あなたたちのように優秀で才能に恵まれた日本の若者が、EBRDを始めとする国際金融機関に就職し、活躍してくださることを願って止みません。

開発分野でのキャリア

ここで、私自身について簡単に触れたいと思います。私は開発経済学を専攻し、最初の現場業務はアフリカ大陸南部のボツワナでした。

職業人生をずっと開発の仕事に費やしてきたわけではありませんが、この分野を選んだことを悔やんだことは一度もありません。

いろいろな面において、EBRDが非常にエキサイティングな時期を迎えていると感じています。

昨年の秋、日本を含む国際連合加盟国は「持続可能な開発目標Sustainable Development Goals」を採択し、世界を変えていくための意欲的で達成可能なプログラムを設定しました。

この分野で仕事をする上での醍醐味は、「開発」に対する考え方や実践方法が常に変わっていくという点だと思います。
スペクトルの端から端までのような、大きな変化です。

昨年末にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で、皆さんと同年代の方々に開発についての話をした際に、私はこう申しました。「専門家と見なされる人たちでさえ、全ての質問に答えられるわけではない」と。
質問が的を得たものでないのかもしれませんが。

ですから、私たちは、学者や関連者もですが、特に学生の方々に手を差し伸べているのです。

あなたたちは、開発の未来に大きく貢献することができるのです。
開発プロジェクトに関わるには、様々なルートがあります。

例えば、学術研究を通じて。これは、現場で突き当たる問題に新しい光を当ててくれるでしょう。

あるいは、私たちにとって大事なパートナーである市民社会を通じて。

それから、官公庁に勤めるという方法もありますね。もしあなたがそのひとりなら、民間企業がビジネスを構築し拡大していくためには政府の役割が大きな意味を持つ、ということを忘れないでください。

また、民間部門での就職を考えていらっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
民間部門が正しく機能すれば、富を生み、多くの機会を作り出し、持続可能でレジリエントな経済成長を助長します。

ここで、EBRD総裁であり開発のベテランであるという私の立場から、再度お願いいたします。皆さん、EBRDでキャリアを積むことを、真剣に考えてみてください。

私たちは、日本の大学生や卒業生にアプローチするため、全力を尽くしています。近々、人材部門の責任者が日本に参りますが、皆さんもEBRDのホームページやLinkedInなどを利用して、職情報に目を光らせていてください。

EBRDがアジアや他の国でどのような活動をしているかをお話しましたが、私の熱意が皆さんに伝わり、私たちの25年間の足取りを感じていただければ幸いです。

皆さんと今度お会いしたときには、EBRDの職員として活躍なさっているかもしれませんね。その日を楽しみにしております。

今日はご清聴ありがとうございました。

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