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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

元世界銀行総裁 ロバート・ゼーリック氏講演「第92回公共政策セミナー」を開催しました 2024年01月09日(火)

概要報告 , 公共政策セミナー

2023年12月12日(火)HASEKO-KUMA Hallにて、世界銀行総裁や米国国務副長官・米国通商代表部代表を歴任したロバート・ゼーリック氏を招き、『History and Prospects of U.S. Diplomacy and Foreign Policy』と題した講演会が開催されました。パネルディスカッションでは元国際司法裁判所所長の小和田恆大使のほか、公共政策大学院長の飯田敬輔教授、法学政治学研究科の高原明生教授・五百旗頭薫教授が登壇し、各専門分野の見地からアメリカ外交について議論を交しました。本イベントは公共政策大学院と飯田研究室の共催による第92回公共政策セミナーとして開催され、約100名が参加しました。

基調講演はゼーリック氏が2020年に出版した著書『America in the World—A History of U.S. Diplomacy and Foreign Policy—』(『アメリカ・イン・ザ・ワールド 合衆国の外交と対外政策の歴史』(上・下)訳:旭英昭)の内容に則して展開されました。

はじめにゼーリック氏は、歴史に立脚した国際政治観を持つことが、理論では説明しきれない外交上の選択を理解する一助になると主張しました。著書ではベンジャミン・フランクリンの時代から現代までのアメリカ外交史を総括すると共に、アメリカ外交を担ってきた人々がいかに歴史を頼りに選択を行ってきたかを分析していることから、講演ではベンジャミン・フランクリンを例にとり、彼が対峙した外交政策の要は「戦争と平和」であったことを踏まえ、歴史を理解することが現代の戦争と平和を考える上でヒントになると論じました。

加えてゼーリック氏は対中関係における主要な問題の1つである台湾を例に挙げ、中国の台湾政策を理解するには「百年国恥」について理解する必要があり、米中対立も米ソ冷戦の歴史を深く理解することで現在との差異が見えてくると語りました。

その後行われたパネルディスカッションでは、飯田院長がモデレーターを務め、ゼーリック氏と小和田大使、高原教授、五百旗頭教授が闊達に意見を交換しました。

五百旗頭教授は、アメリカ外交を担ってきた人達の歴史認識も重要だが、その歴史認識を形成する生い立ちや人格がどのように政策判断に影響するかについて触れるべきであった、と指摘しました。

高原教授はアメリカがグローバルサウスにおいて不人気なのはアメリカ歴代政権の地域への無関心によるものではないかと指摘するとともに、ゼーリック氏が中国に対して提唱した「責任あるステークホルダー」論はアメリカの民主化政策の一環として、中国のレジームチェンジを意図したものだったのかという疑問が投げかけました。これに対しゼーリック氏は、「責任あるステークホルダー」論はアメリカが持つ規範的価値を中国に共有してもらうことだと強調した、と明らかにしました。

小和田大使は外交官が常に直面する「国益」と「国際公共益」のバランスをどう取るべきかという問題を提起したが、ゼーリック氏は「国益」と「国際公共益」は必ずしも矛盾するわけではなく、共通益を「国益」として展開していくことが外交担当者の役割であると述べました。

最後にゼーリック氏は、歴史認識が各国の外交政策に深く関わることから、「相手の立場に立って考える」ことが重要であると主張し、会場との質疑応答の後、講演会は盛会のうちに終了しました。