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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

2023年度3月修了生の学位記伝達式を挙行しました 2024年03月22日(金)

概要報告 , 式典

2024年3月21日、2023年度春季公共政策学教育部学位記伝達式を挙行しました。
国際学術総合研究棟SMBC Academia Hallで開催され、修了生に本教育部長から学位記が伝達されました。この春、67人の学生が学位記を授与しました。

また、成績優秀者の表彰式も行われました。最優秀成績賞は修士課程の学生1名に贈られ、成績優秀章は修士課程の学生4名に贈られました。

最優秀成績賞の名和宏晃氏は、同日に挙行された東京大学学位記授与式にて、修了者代表として答辞を述べました。

答辞全文

院長祝辞

修了生の皆さん、本日は、大学院修了大変おめでとうございます。

また、修了生のご家族の皆様、ご友人の皆様、また彼らの指導をしてくださった関係者にも、お祝い申し上げます。

今月修了される方は、総勢67名、うち、法政策2名、公共管理9名、国際公共政策22名、経済政策22名、国際プログラム12名(うち、ダブルディグリー6名)です。

さて、公共政策大学院の特徴は、その学際性にあります。つまり、どんなコースに入ってもかならず、法律科目、政治科目、そして経済科目をとらなければならないことになっています。しかし、これは「言うは易く行うは難し」です。学問分野によって、それぞれいうことがまったく違うということがあるからです。

しかし、法律、政治、経済ともにメッセージが一貫しているという分野もすくなからずあります。たとえば、貿易です。

法律では普通、国際経済法、すなわち、GATT・WTO法を教えます。そしてその内容は複雑ですが、基本的には、長期的に自由貿易が実現するような制度になっています。また政治では、レントシーキングということが起きるといいます。本来は自由貿易がよいのだけれども、ときおり保護主義勢力が出てきて、レントシーキングを行い、保護主義的政策がとられることもあるといいます。ここでも、基本は自由貿易がよいということです。最後に、経済学はメッセージが最も明快で、自由貿易を行うと比較優位の原則に基づき、効率的に資源の配分がなされる、と教えています。一定の条件が整えば、自由貿易がよいということです。

しかし、世の中は急速に、逆の方向にベクトルが働いています。一番心配なのがWTOのことです。WTOの形骸化という深刻な事態が進んでいるからです。ついこの間(2月26日~3月2日)、第13回閣僚会議がドバイで行われましたが、ほとんど成果なく、終了しました。

また、ご存じかと思いますが、WTOでは、紛争処理システムの上訴機関である、上級委員会(appellate body)が開店休業状態に陥ってしまっています。これがないと、その下級審にあたるパネルで出てきた判断が法的に確定できないことになります。これまでWTO法では、判例法が積みあがって、かなりしっかりした法体系が築かれつつあったものが、ここへきてストップするか、少なくとも大幅にスローダウンするという事態になります。

また、GATT第21条に、安全保障例外というのがあります。これが援用されるケースが増えています。しかも、あろうことか、アメリカが、「当事国が『これは安全保障マターである』といってしまえば、これが自動的に適用される」と主張しています。この論理がまかり通るようであれば、これからはどんな国であろうとも、GATT・WTO違反を犯した場合に、「これは安全保障」といって、無罪放免になってしまうということです。非常に危険であることがおわかりいただけるでしょうか。

これまで自由貿易の実践を理論的に支えてきたのは、経済学ですが、経済学のほうでも不穏な動きがあります。MITの教授のオートー(Autor)という経済学者が、「チャイナ・ショック」という論文を書き、中国からの輸入により、アメリカの製造業は何百万人もの雇用を失ったことを実証したと論文を書き、これが経済学者だけでなく、アメリカの政治家にも引用されるようになりました。ですから、中国とのデカップリングを主張したい人たちには格好の武器となったわけです。このようにこれまで自由貿易一辺倒であった経済学も揺らいでいます。

なぜこのようなことをいうかというと、これまで真と思われていたことも、時として急激に変わりうるということを示しています。このように時代の変化が激しいなかでは、大学院修了とともに、勉強をやめるのではなく、これからもますますの研鑽に励んでいただきたいということを意味します。

また公共政策大学院では、グローバルリーダーとなる方の養成を目指しています。ですから、こういった厳しい情勢の中で、いかに自由貿易の火を絶やさないか、その解決法を考えていただけると幸いです。

それでは改めまして修了おめでとうございます。

東京大学公共政策大学院 院長
飯田 敬輔