概要報告
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GraSPP Research Seminar
2024年6月6日、東京大学本郷キャンパスにて、公共政策大学院主催のリサーチセミナー”The Just Energy Transition”を開催しました。
※本セミナーの運営スタッフとして、教養学部前期課程・全学自由研究ゼミナール『海のアジア』の学生が協力しました。
講演者の Daniel Kammen先生はカリフォルニア大学バークレー校の特別教授で、同大学のRenewable & Appropriate Energy Laboratory(RAEL)創設ディレクター、Berkeley Institute of the Environment の共同ディレクター、Transportation Sustainability Research Center のディレクターに加え、10 社を超える企業を設立または取締役を務めており、カリフォルニア州および米国連邦政府で専門家および顧問として活躍しています。ヒラリー R. クリントン国務長官(当時)により、アメリカ大陸環境気候パートナーシップ (ECPA) の初代フェローに2010年に任命された後に、2016年以降はジョンケリー国務長官(当時)の科学特使 (Science Envoy)としての重責を担われました。
講演では、「公正なエネルギー移行(Just Energy Transition)」について、豊富なご経験を踏まえてお話しいただきました。 「公正なエネルギー移行」のあり方は各国で多様ですが、従来の石油を中心としたエネルギー構成から再生可能エネルギーを中心としたエネルギー構成への移行は、世界中で確実に進んでいます。その背景には、再生可能エネルギーの価格低下があり、例えば太陽光発電モジュールはその累積出荷量が2倍になるごとに、価格が約20%低減してきた過去のデータがあり、これは「スワンソンの法則(Swanson’s law)」として知られています。その結果、太陽光発電は現在ではもっとも安価な電力となっており、価格の低下する各種電池の実用化と併せて、再生可能エネルギーへの移行を推し進めています。
米国でももっとも移行が進むカリフォルニア州においては、 同州内で使用される電気に対して、2045年までに100%(2030年までに60%)を再生可能エネルギーと「ゼロ・カーボン」のエネルギーで賄うよう、電気事業者に対して義務付ける法案1 が2018年9月に成立しました。それ以降、ここ数年の動向をみても、電池の普及を背景として、再生可能エネルギーの導入は増加しています。カリフォルニアではすでに170万台の電気自動車が普及していますが、こうした電気自動車が昼に電気を購入し、夜に売電することで、太陽光発電の普及はより進むことが予想されます。
日本では2020年に菅首相(当時)により「2050年ネットゼロ」が宣言されましたが、太陽光発電、(洋上)風力発電、そして電池の価格低下を通じて、2035年に再生可能エネルギーの発電割合が全発電量の90%に達するシナリオを「2035年日本レポート(The 2035 Japan Report)」と題して発表されました。これは、RAELが開発したエネルギーモデル”SWITCH“を用いて最小コストのエネルギーシステムを分析した結果ですが、他国と違う点は日本のエネルギー移行には水素の活用が欠かせない点です。特に洋上風力などを用いたブルー水素の製造が必要となります。
未電化地域が多く残るアフリカにおいては、電力供給による医療の改善が移行におけるポイントとなります。2021年には国連のハイレベル対話において、2025年までに1万の医療施設、最終的には10万の医療施設の電化を目指すことが決定されました。こうした動きの一環としてKammen先生はUSAIDによる“Powering Health”プロジェクトを率いており、太陽光発電を用いたミニグリッドや電力サービスの状況を計測するセンサーなどの導入・普及をケニアなどにおいて精力的におこなわれています。
講演後の質疑応答の際には立場・国を超えた活発な議論が展開されました。質疑応答の後にも、Kammen先生は参加者と交流を続け、今後の移行研究における幅広い協力を希望されていました。
公共政策大学院でも共同で本を編集・出版しており、今後もオンラインなども通じて共同研究を進めていく予定です。また、持続可能性に関する、オンライン夏期講座をバークレーで開講していることを告知されておりましたので付言します。Kammen先生にはいつも貴重な機会をいただいており、この場を借りて御礼申し上げます。
1 The 100 Percent Clean Energy Act (俗称”Senate Bill (SB) 100″)