GraSPPを修了して10年が経つ。一昨年の同窓会に出席したが、自分が就職した後も脈々とGraSPPが進化していることがわかり、非常に感慨深かった。
法学部を卒業後、経済を勉強したいという思いがあったことから、法政策から経済政策コースに切り替えることを前提に公共政策大学院を受験した。受験時の面接では学部のゼミでお世話になった寺谷先生が試験官で驚いたことを覚えている。経済学を勉強することで効率性や資源の最適配分といった観点で社会を見る素養を身につけることができたと思う。学部では法哲学的な問いに関心を持っていたが、経済学を学んだことで自分の思考の幅が広がった。
入学当時GraSPPはまだ設立3年目だったが、教授陣も国内トップレベルの先生を擁しており、就職してからいかに社会的にも影響力を持つ方々だったかということに気づかされることになる。学生が主体的に議論する、プロジェクトを発表するといったやり方は非常に楽しいものだった。また海外からの留学生や、社会人留学の学生、他学部出身の学生など多様なバックグラウンドを持った人が集まっていたのも刺激的だった。
当時の自分は論理性と創造性の両方を使って社会を変える仕事がしたいと思っていた。二度目の就職活動を通じて、改めて自分と社会と真面目に向き合った。民間企業と官庁両方を就職活動で回ったが、人材の多様性と面白さで経済産業省を選んだ。官庁訪問でも自分の部署の観点から日本がどうあるべきかを学生に対しても真剣に話してくれる職員が多く、その熱意に打たれた。また政府にあって社会のフレームワークをどうやって変えていくべきか、新しいアイデアを尊重するカルチャーにも共感した。
2008年に経済産業省入省後これまで法人税改革、内閣官房での地球温暖化対策、震災後の電力需給調整、エネルギーミックスの策定、資源エネルギー庁での石油業界再編、資源戦略、バイオ燃料政策など、その時々で興味深いイシューに携わってきた。
2年から3年で業務が変わる中で新しい政策分野に入るたび、ステークホルダー、産業構造を頭に叩き込み、ボトルネックを分析し、周りを巻き込みながら政策を実現するというのが経済産業省の働き方だ。Grasppでの学びにも通じ、在学時の経験は入省後も役に立った。キャリアを積む中でだんだんと自分の産業マップが埋まっていき、繋がっていく。忙しくも知的好奇心が尽きない職場だ。
Graspp時代は交換留学しなかったものの、2015年から国費留学でシンガポール、アメリカに渡った。断言できるのは早いうちに留学すべきだということだ。他国の空気を吸い、日本人による同調圧力がない世界で生きることで、日本という共同幻想に気づく。
アジアのベンチャーエコシステムに関心があり、これを勉強していたが、一番イノベーターによる破壊が起きていないのはどの分野か。それは行政であるとシンガポール政府のスマート・ネーションイニシアティブによって気づかされた。
日本人の多くは、行政は利用者を理解しない、非効率な存在だと思っている。しかし裏を返せばそこに大きな変革のチャンスがあると言える。デジタルテクノロジーを活用し、国民の利用しやすい行政サービスを作る。自分は経済産業省からこれを実現するべく、現在様々な取組を進めている。
就職先としての公務員人気が落ちていると聞く。しかし本当に社会にインパクトを与えたいのなら一番古いものを一番新しくすることだ。行政デジタル化の分野で多くの修了生が活躍している。僕らは行政を内側から一緒にHackする仲間がGrasppからやって来るのを待っている。