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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

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CAMPUS Asiaの授業をTAの視点から考察する

Jin Igata (from Japan)

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CAMPUS Asiaプログラムの授業の受講をきっかけにTAに就く

CAMPUS Asiaとは、東京大学・北京大学・ソウル国立大学校・シンガポール国立大学の4大学の学生が、交換留学やダブル・ディグリー・プログラムを通じて交流を行うことで、東アジアというフィールドに精通した国際人を養成するためのプログラムです。私自身はCAMPUS Asiaプログラム生ではありませんでしたが、元々中国で幼少期を過ごしたこと、また学部の頃から日中関係をはじめとした外交・安全保障を専門分野としてきたこともあり、昨年度、CAMPUS Asiaの授業に受講生として参加していました。

受講生として参加したときは、異なる価値観を持つ人たちと議論することが楽しかったのに加え、授業の合間にオンラインでお互いの国や文化のこと、またCAMPUS Asiaに興味を持ったきっかけについて話すのが大変楽しかったことを覚えています。一方で、コロナ禍によってフィールドトリップは中止になり、また多くの学生とオフラインで話すことが叶わず、そうした意味では悔いが残ったのは否めませんでした。したがって、今回、担当教員の服部先生からTAのお話をいただいた際には、授業は原則対面で行われ、長らくできなかったフィールドトリップもあるということで、大変期待していました。

日本のローカルな現状について日本人学生と留学生が共に考え、政策提言を行う

AセメスターのCAMPUS Asiaの授業の特徴は、何と言っても日本人学生と留学生が互いに議論し、日本の地方の問題に取り組むという点にあります。国際的な視点から日本の地域の問題に取り組むことの意義は、他の東アジアの学生を交えることによって、よりゼロベースでの議論が可能になるとともに、全く異なる視点からのアイデアが生まれうることだと考えています。今回も例に漏れず、受講生たちは長野県小布施町の地方創生の課題に取り組むことになりました。今回はそれだけでなく、政府の掲げる「デジタル田園都市国家構想」(デジ田)を参照し、ここに示されている方向性を尊重しながら、どうやって国のリソースを活用しつつ、同時に地方の取りうる戦略にまで落とし込むかということを考える必要がありました。そのため、小布施町で活躍する職員や民間事業者の方々からの講義を受けるのと同時に、総務省や内閣府などの現役の国家公務員の方々とグループワークを行った他、講義を受けるなどしました。

今回、多くの学生にとって特に困難であっただろうと思われるのは、自治体行政と国家政策をどのように調和させるか、ということです。当然ながら、自治体それぞれに取り組みたい政策があり、その前提となる資源についてもそれぞれ状況が異なります。観光・インフラ・企業招致・DX・環境など、自治体が取り組む政策分野は多岐に及びます。しかし、ただでさえ東京一極集中が進み、少子高齢化・過疎化が多くの自治体で進行する中で、自治体の限られた資源を有効活用するには、これら考えられうる様々な政策の中から、各々が取り組みたいものを取捨選択するしかありません。結果として、一様に地方創生と言っても、その様相は自治体によって大いに異なります。内閣府のデジ田は、そういった地方の多様性に鑑みて、それぞれの自治体の自主性を尊重しながらも、DXの必要性を強調しています。また総花的に様々な政策パッケージを提供することによって、異なる自治体に必要な異なる補助を行うことを可能にしています。

DXを通じて各自治体の異なるニーズを満たそうとするのがデジ田ですが、必ずしも自治体と国が協調できているわけではありません。自治体側からのデジ田に対する指摘は主に2つあり、1つ目はデジ田に具体的かつ明瞭な方向性が見えないということ、そして2つ目はデジ田に伴う各種申請やレビューイングのプロセス、また国からの補助を受け取るにあたっての手続きが煩雑だということです。個人的見解としては、前者の方向性の欠如ということに関しては、ある意味では国側の自治体への歩み寄りの結果であり、必然だと考えています。つまり、国としては自治体の自主性を期待し、あえて総花的なデジ田を打ち出していると考えることもできます。問題はむしろ後者です。自治体にとって限られたリソースを国との調整作業に費やすのは、外部からの想像以上に人的負担が大きいことがわかりました。例えば小布施町の場合、デジ田も含む地方創生担当の部署には2名しかいないのです。デジ田自体は魅力的に映る一方、実行に移すまでの負担が大きく、これが多くの地方自治体がなかなかデジ田に沿った政策を行いづらい原因になっています。

このように、自治体や政府の当事者でさえ試行錯誤をしながら成功例を少しずつ積み上げながら、なんとかして地方創生というテーマに取り組んでいます。そんな中で、日本に来てほんの数ヶ月の留学生を交えた学生十数名が、自治体行政と国家政策を調和させるための政策を考えるのです。当然、傍目から見ても困難な課題であり、公共政策を履修してきた学生たちとはいえ、最初は与えられた課題に戸惑っていた様子でした。それでも、最終的には自分なりの課題認識と解決方法を各々のグループが考えており、中には小布施の地方創生担当の給与増額や任期延長などを伴うような、既存の仕組みにとらわれない発想がありました。もちろん、今回提案された政策が直ちに実際の自治体行政や国の政策に反映されるわけではありません。しかし、日本のローカルな現状について日本人も留学生も共に考え、政策提言を行えるのは、CAMPUS Asia以外では得難い経験なのは間違いないと思います。社会の舵取りを担う人材が、こうしたプログラムに参加することの意義は大きいのではないでしょうか。

授業を通じて感じたこと

自信を持って自分なりの英語を話すことの重要性

私のTA業務の大部分は、日本語資料の翻訳やプレゼンの通訳でした。それは、ゲスト講師の方々が英語によるプレゼンや議論の経験をあまり持っておらず、自らの英語能力に不安を覚えていたからだと推察します。しかし、そういった方々でも、実際に英語で話しているのを聞く限りでは、さほど言い回しの不自由さを感じませんでした。少し脇道に逸れますが、これはGraSPPの日本人学生にも見られる現象です。日本人学生は「自分は英語を話せない」という自己認識から、英語の授業を履修することを断念する場合が少なからずあり、このことから留学生との接点が薄れてしまうのです。これでは機会損失になってしまいます。そうした意味でも、あまり「英語力」にこだわらずに自信を持って自分なりの英語で話すこと、これが重要なのではないかと思います。実際、CAMPUS Asiaプログラム生はほとんどが非ネイティブ・スピーカーであるにもかかわらず、自らの意見を堂々と述べていたのが印象深かったです。

日本は「アジアの国」

実はこのことは、多くの日本人にとっては決して自明なことではないのではないかと考えています。「アジアの国」という区分の中に日本を入れることに抵抗感を感じる人は、少なくないのではないでしょうか。日本が相対的に衰退していく中で、国際社会におけるプレゼンスを保つには、アジア地域の中で生きていく必要があると考えます。こうした中で、日本としては「アジアの国」の一員だという自意識を新たに持って、東アジア各国との相互理解を深めるべきだと考えます。単なる文化交流ではなく、また排外主義に陥ることもなく、まずは近隣諸国に対する理解を深めることで、その行動様式を理解する。そうした人材が政府にも、民間にも増えることは、日本の国益になる、そう私は考えています。CAMPUS Asiaは、将来の日本を形作っていく学生たちが、アジアの中の日本の立ち位置に自覚的になる素地を与えてくれます。そうした意味で、このプログラムの存在は意義深いと感じました。

非常にGraSPPらしい授業

今回のような野心的な授業内容が可能になったのは、担当教員の服部先生や、講義担当の林さんをはじめ、官と民の世界に精通した方々がいらっしゃったからに他なりません。振り返ってみれば、CAMPUS Asiaにとどまらず、様々で授業でそうした環境の恩恵を感じてきました。
GraSPPで学ぶことができ、本当に幸せだったと思います。