民間企業からGraSPPへ
「若者にはお金がなく、大人には時間がなく、老人には元気がない。」
あまりにも有名なこのフレーズはおそらく多くの人にとっての真理だと思いますが、僕はこの「若者」が「大人」になりつつあるタイミングで、GraSPP、そしてLSEで公共政策を学んでいます。
新卒で入社した総合商社で世界中のビジネスに触れたことで、どのような当事者が、どのような形で関与しているのか、その一端を知ることができました。転機が訪れたのは2020年で、ミャンマーで勃発したクーデターやCOVID-19の流行により、自分が関わっていたプロジェクトの多くが中断、撤退を余儀なくされ、テレワークで有り余っていたエネルギーの向かう先を失いました。その一方で、国際機関のスタッフが問題解決に向けて奔走する姿を見て、パブリックセクターの仕事に魅力を感じ、そのような働き方に関心を持つようになりました。
民間企業の役割は、ビジネスを通じて世界の発展に貢献し、人々の暮らしをよくすることだと言えると思います。しかし、営利企業である以上、株主への利益還元を常に考えなければならず、時にソーシャルインパクトとの間でどのようにバランスを取るべきか、難しい判断を迫られることもよくあります。僕には具体的な研究テーマがあるわけではないのですが、「より豊かな社会の実現のために、国家、国際機関、民間企業、NGO、地域社会、研究機関等がどのような貢献を果たすべきか。そしてそれがどのようにオーガナイズされるべきか」という興味が、今の学習の根底にあります。
Dive into London
GraSPPで一年半過ごした後、2023年の9月からLSEで勉強していますが、僕の所属するLSEのSchool of Public Policyには世界中から多くの学生が来ています。南アジアの有力な政治家の子女もいれば、南米のとある国の財務省から派遣されて来ている学生もいます。スーダン出身の友人は、通っていた大学が軍隊に占拠された経験から政策について学ぶ必要性を痛感し、LSEに進学を決めたようです。ありきたりな感想ではありますが、多様な国籍や職業経験、そして魅力的な個性を持つ学生に囲まれての学習は本当に刺激的です。4人チームで行ったCapstone Projectでは、最終レポートの締め切り直前に深夜3時過ぎまで図書館でミーティングに参加し、数時間休憩してまたミーティングという日々が続いたりもしました。世界各国から断固たる決意を持ってロンドンに集っているだけに、みんなタフでパワフルです。
ロンドンでの暮らしは、予測できない部分も含めてとても面白いです。ストライキで動かない電車に翻弄され、加速する円安に胃がキリキリすること必須ですが、ごくたまに見せる晴れ間の美しさに、ほとんどの留学生がそれまでの不平不満を引っ込めます。よく学びよく遊ぶ(飲む?)文化が浸透していることもあり、キャンパス内のpubはいつも授業終わりの学生で賑わっています。
ALL IN
同年代の社会人の方から、大学院進学や留学について時々相談を受けますが、僕はいつも挑戦してみたらいいのではと答えています。キャリアが中断することや、収入、家族の問題などの不安があり、簡単な決断ではないですが、決して不可能なことではないと思います。一見失ってしまうように見える「数年分のキャリアや収入」は、「将来への覚悟と学習へのモチベーション」に形を変え、自分の中で確かに存在していると実感しています。
僕自身、資金や時間などの大量のリソースを投入し、周囲の理解と応援に支えられて、GraSPP・LSEへの進学が実現した部分があり、動き出してしまった以上ウジウジしているわけにはいかない、という思いは確かにあります。そして、その思いがこの決断を無意識に肯定的なものに捉えさせてしまっているだけかもしれません。
そんな中で考えているのは、自分は、お金と時間とエネルギー、それから周囲の人のサポートを元手に、一発大きな賭けをしているのではないか。そしてこの賭けは決して運任せではなく、地道な努力と自分の覚悟で勝率が上がっていくのではないか、ということです。この文章を読んだ方の中に、もし自分と同じ境遇の方がいれば、ぜひ挑戦をしてみてほしいと思いますし、その挑戦を、心から応援します。