GraSPPに進学したきっかけについて教えてください。
私は学部のころから公務員になりたいと考えていました。法学部に在籍していた頃、公共政策大学院(GraSPP)との合同の授業があり、先輩でGraSPPに進学した方がもいたので、GraSPPは身近な存在でした。「公務員」という夢に一番近づきやすい選択かと思い、GraSPP進学を決めました。
当時のGraSPPでは、入学した段階では、半分以上の人は公務員志望だったように記憶しています。修了時には様々な進路に進まれる方がいましたが、それでも最終的に多分その三分の一から四分の一くらいの同級生は公務員になっていたかと思います。
私はGraSPP修了後、厚生労働省で四年ほど働き、UCバークレーでデータサイエンス系の修士号を取得し、そのままアメリカに残り、今はエンジニアとして働いています。
受講した授業の中で印象深い授業などはありましたか?
GraSPPでは、さまざまな分野の授業が行われており、印象に残っている授業の一つは、行政学の前田健太郎先生が全編英語で講義していたDiversity and inclusionという授業です。はじめて全編英語の授業を受講して、ディスカッションが毎回あったのですが、周りについていけず、大変な思いをしたことを覚えています。
他にも医学部で開講されている医療経済学の授業があり、医学部の建物でお医者さんなどと並んで授業を受け、非常に印象深い経験でした。
また、立法学の授業では、法令文書の作成の仕方などを具体的な手法を教わったのですが、授業の課題でマス目のある原稿用紙が配られて、「ここは3字空けして、タイトルは1字空けて…」など、細かいルールが設けられた法令の正式な書き方に則って正確な文章を書きなさいという宿題が出て、驚いたことを覚えています(笑)
日本とアメリカで修士を取られていていますが、日本とアメリカの大学教育に違いはありましたか。
私はUCバークレーで情報系の修士を取ったのですが、この修士も研究系ではなく、専門職系なので、GraSPPと形は似ていて、論文提出はなく、基本的にはいろいろな授業を取りながら、最後の一学期でグループプロジェクトをおこなって卒業するというものでした。
海外の大学は一学期にたくさん単位を取るのが難しいとか、予習復習が大変だとよく言われますが、実は日本の大学とあまり違わないような気がします。学部のことはよくわかりませんが、GraSPPでの生活とアメリカの大学院生活は結構似ているような印象でした。ただ、アメリカではグループ課題が多かったです。また、私が行った大学院だけかもしれないですが、実際にバークレー市や、市内にあるNPOなどをクライアントにして、コンサルティングや、抱えている課題に対して技術を使って解決するといった授業がありました。実社会との関わりという点では、日本の大学よりも強いかもしれません。
GraSPPで得た学びと、新卒で就職された厚労省でのお仕事とのつながりについて教えてください。
GraSPPで取った授業と厚労省の仕事は、直接関わるものもあれば、そうでないものもありました。立法学の行政文書の作り方の授業や、政策過程論という、法律がどのようにしてできるかについての流れを学ぶ授業などは、授業で習った通りの出来事、例えば審議会が開催され政府の案が検討されて、国会に提出されるといった流れを実際に仕事で関わることになったので、その時は、授業で予習をしていたような感覚はありました。
ただ、実際に仕事で学ぶことの方が多く、日常の業務はやはり仕事を通じて身につけた知識の方が使った気がしますね。
公務員になることが入学時に念頭にあったのかと思いますが、入学当初に期待していた学習内容とその実現度合いはどうでしたか?
私は公務員になることが目標で、そのために手段として公共政策大学院に入学したので、その目的は達成できました。実は一年目で官庁訪問して内定をいただいたので、一年目でほぼ単位を取り切って、二年目は働きながら単位を取って卒業しました。
国家公務員とエンジニアという別の分野を体験されてみて、いかがですか。
アメリカに残ってエンジニアになるというのは簡単な選択ではありませんでした。だた、自分の中では一貫していて、常に、世の中の役に立つために社会の問題や課題を解決する、また世の中に良いインパクトを残せる仕事をしたいという思いでいます。
最初はそれを国家公務員の形で実現しようと考えていました。いろいろな課題に対して、ゆりかごから墓場まで関わりたいと思い、厚生労働省で仕事していました。実際に働いていく中で、組織が大きいことのいい面もありました。プロジェクトのインパクトや、効果や影響力はすごく大きいので、その魅力はあったのですが、一方で、何をするにも多くの利害関係者と調整をする必要があり、「もっとこうしたらいいんじゃない?」と思ってもそれが気軽に実現できるような環境ではなかったため、一人の人間でできることの限界を感じました。
そうした中で、アメリカの自由な風土であったり、エンジニアとして技術を通じて、一人ないしは少人数であっても小さなプロダクトでも大きなインパクトを残すことができる点に惹かれて、アメリカで挑戦してみようと思うようになりました。
二年間、大学院でテック系やプログラミングなどの勉強をしましたが、教育の場で勉強することと、仕事を通じて学ぶ知識は少し異なるだろうと思い、現場をもっと知りたいという気持ちも、キャリアチェンジの原動力になりました。
最近は公務員志望の学生が減っているようですがどのような印象をお持ちですか。
公務員から民間企業に転職をした私が言えることではないのかもしれないのですが(苦笑)、私はファーストキャリアで国家公務員になって、公務員の仕事のやりがいやインパクトは、国ならではのものがあると感じましたし、職場の同期や他省庁の同期も含めた仕事で関わる人たちの公務にかける思いや、視野の広さ、情熱はすごく刺激になりました。ファーストキャリアで公務員を選ばない人が増えてしまったのは残念な気持ちもありますが、最近は中途採用の枠が広がってきていると思うので、後々に公務員になる選択肢も大いにあると思いますし、行政の側もそうした人材が活躍できる環境をより整えていくべきだと思います。
最後に学生へのメッセージをお願いします。
GraSPPは自由に授業が取れるので、どんな風に自分でキャリアを形成していくのか、自分で主体的に選択していくことがとても大事だと思います。そのために役に立つかもしれない方法として、日本語でも良いので一度アメリカ式の履歴書を作ってみることをお勧めします。
日本式の履歴書だと経歴を淡々と羅列する形式ですが、アメリカ式の履歴書やレジュメは、自分はこのポジションでこんな経験をしたとか、大学でも、何の授業を取って何を学んだといったことを具体的にアピールするようになっています。私はアメリカ大学院の出願する時になって初めて、最初の部署はここで、次の部署はここでしたと書いた後に、そこで何をやったか、何を学んだと細かく書きました。その時に初めて自分の職歴を真剣に振り返って、広いビジョンで自分のキャリアを見直すことができたと思いました。
皆さんにはぜひ、 今の自分の、履歴書を作ってみて、二年後、五年後の自分がどんな風になっていてほしいか考えてみていただければと思います。アメリカで広く使われている、LinkedInという、働く人のためのフェイスブックのようなプラットフォームがあるのですが、そこではアメリカ式の履歴書並みの細かさでプロフィールを書いている方も多いので、それらを見て、特に理系×公共政策など、少し人と違う、ないしは珍しいキャリアを選ぼうとしている人は、自分に似ている人を探して、理想の自分の履歴書をイメージしてみるといいと思います。
※本記事は、2024年5月18日に開催した公共政策トーク「理系×公共政策」の登壇内容に基づき編集しております。