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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

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日本からコンゴの紛争解決に取り組む、高校教師出身の研究者

華井和代 (from Japan)

石板に刻まれた古代文字をすらすら読み解くインディ・ジョーンズに憧れて、大学でオリエント史を専攻。中東の紛争にも強い興味を持つようになった。後に高校で教職につき、世界各地の紛争と日本にいる自分たちとのつながりについて教え始めた。

しかし数年が経つころ、「『つながりがある』と自分も言っているけれど、それはきちんと確かめられているんだろうか?」という疑問が芽生えた。ならば自分でつながりを検証しよう。華井は東京大学公共政策大学院の門を叩く。

コンゴ民主共和国(コンゴ)の紛争鉱物問題に出会ったのはその時だった。コンゴは電子機器に欠かせないタンタルなどの希少な鉱物資源に恵まれた国だ。しかしその利益を狙う武装勢力によって、多くの人が苛烈な暴力にさらされてきた。

残虐な殺人やレイプが組織的に行われ、コミュニティや家族の絆がずたずたに断ち切られる。日本人の日常とかけはなれた激しい暴力ゆえにはるか遠い世界のできごとに思えてしまうが、そのはるか遠くから暴力を作り出しているのはほかならぬ自分たちの日常かもしれない。

2018年、コンゴで性暴力を受けて苦しむ女性たちを救ってきたデニ・ムクウェゲ医師がノーベル平和賞に選ばれた。それを機に日本でもこの問題が知られるようになってきたものの、2~3年に一度というハイペースでスマートフォンを買い替える日本人が、買い替えの時にはるか遠くのコンゴとのつながりを意識することはまずないだろう。

それを「知らなかったから」で済ませず、日常を変え、社会の仕組みを変えることが紛争地の暴力を減らしていくはずだ。華井はそのための一歩として、日本での生産・消費行動とコンゴで起きている紛争との結びつきを明らかにしようとしている。

「ただ、研究の過程で見えてきたのはコンゴから日本までの具体的なつながりだけでなく、貴重な原料を有する地域の人々は暴力や貧困に苦しみ、製品の設計をした企業が大きな利益を得て、消費者は利便性やコストメリットを得ているという経済構造でした。これは主体や産品が違うだけで、200年、300年前から世界規模で綿々と続いていた“搾取の構造”ですよね」

華井の研究はミクロな「つながり」と、背景にあるマクロな「構造」を可視化する。いわば、病気の根本的な原因を突き止めようとする医学の基礎研究のように。

「現地には援助機関が入り、人々を支援しよう、紛争や暴力を止めようと奮闘しています。紛争地域に入って現地の人と信頼関係を築き、苦しむ人を救おうとする実務家を私は心から尊敬しています。自分は現場に貢献していないではないか、という歯がゆい思いもあります」

でも、と華井は言葉を継ぐ。

「もし現状や原因の理解が不正確だったら、対処の方法も解決の方法も的外れになってしまう恐れがあります。誰かが正確な理解を紡いでいかなくてはいけない。それが私の仕事だと思っています」

華井は理解の基礎となる知識を丁寧に道に敷きつめていく。苦しむ人々を救おうとする人たちが現場で適切なルートを探し出せるようにと、日本の人が、自分の日常とコンゴ人の命が同じ地平にあることを実感できるようにと願いながら。

(東京大学ホームページUTokyo Voicesより)