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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

日本がインド太平洋地域の「欧州化」に果たす役割

By Yee Kuang Heng   

論文「インド太平洋地域の形成?日本と欧州化」が、ロンドンのシンクタンク LSE IDEAS から出版された。安全保障に関する日本の米国依存と日本の外交政策姿勢について最近執筆した論文の中で、長年に及ぶ二点の見方について詳しく論じている。日本の安全保障は、1945年の終戦以来、概ね米国に依存してきた。日本が志を共有するパートナーに対してインド太平洋地域の形成を呼びかける積極的な姿勢の分析に当たり、近年、欧州がインド太平洋地域に軍事配備を広めようとしている傾向と関連付けている。

2021年、岸信夫氏は日本の防衛大臣として初めて安全保障と防衛に関する欧州議会小委員会で演説し、EU加盟国に対してインド太平洋地域において「軍事的存在を目に見える形で堅持している」と呼びかけた。同年、ある自衛隊高官は、ドイツが初めて会談に参加したことを受けて、すかさず、「これまでにこれほど頻繁にツープラスツー会談を行ったことはない」と発言した。英国のEU離脱後のインド太平洋地域への「関与」を受けて、2017年、河野太郎外相が「英国がスエズ運河の東のインド太平洋地域に復帰することを心から歓迎します。」との歓迎のスピーチを行った。

論文の中でインド太平洋地域の「ヨーロッパ化」という用語を使っているが、これは同地域における欧州の甚大な利益を守りたいという欧州勢の願望だけでなく、日本側が欧州の仲間に対して積極的に相互協力を呼びかけている状況も意味する。同地域を「形成」しようとする動きを吟味すると、諸国間関係が近年とみに深まっていることが分かるだけでなく、将来の動向の示唆を得ることもできる。

前進の足固め

日本は、2013年、初の国家安全保障戦略を打ち上げ、地域の平和と安定に「積極的に」取り組むとし、フランスと英国の2国が欧州主要パートナーであると繰り返し述べた。日本の国家安全保障戦略から、その目的が、「アジア太平洋地域の安全保障環境を改善し、日本へ直接脅威を防ぎ減らす」点にあることが読み取れる。日本が2019年に公表した防衛計画大綱に関して、日本の自衛力と対米同盟に加えて、「国際安全保障協力」という第3のメカニズムにより防衛力を強化し「創出」するという決意が改めて強調されている。実際、日本は、国家安全保障戦略の中で、地域の安全保障環境の形成と維持に向けて、志を同じくする欧州諸国との積極的な協力を提唱した。次いで 2021年、日本は防衛白書の中で、ドイツは欧州第3の主要パートナーであるとした。

この戦略を「環境」目標の概念と比較する。環境目標を定義づけたのは、国際関係論学者アーノルド・ウォルファーズで、「国の環境活動の形」である。環境目標には、航海の自由と規則に基づく秩序が共通関心事として含まれるが、どちらも日本と欧州の接近の元となった。インド太平洋地域の形成を提唱している国は他にもある。当該諸国の記した文書の例を挙げれば、1997年発行の米国国家安全保障戦略、2021年発行の英国統合レビュー、EUとアラブ地中海地域との連携書類となる。これらの動きは、国際環境の「形成」とルールに基づく秩序の維持を予告するものだ。

グローバルパートナーとしての復権

日本の積極姿勢は、嘗て日本が地域の安全保障に果たす役割について消極的だったという一般認識とは対照的である。その認識は、日本は小切手外交に依存し過ぎるという見方の定着だった。だが、2021年、シンガポールの東南アジア研究所が行った調査によると、日本の台頭は、近隣諸国間の潜在的な「バランス要因」となっている。「ASEANが、不確実な米中間の戦略的競争をヘッジするために<第三者>を探すとしたら、ASEANにとって最も好ましく信頼できる戦略的パートナーはどこか?」という質問に対して、EUがトップで、 日本は第2位、得票率は39.3パーセントだった。

日本は安全保障の重要性を目に見える形で示しただけではなく、米国撤退後の環太平洋パートナーシップ協定と地域的包括的経済連携協定を救済する重要な役割を果たした。安倍前首相が、2007年、インドで行った「二つの海の合流点」と題したスピーチの影響について述べ、これを機に「インド太平洋」に関する話題が沸騰した。

日本は欧州パートナーから前向きな反応を引き出してきた。2021年、ドイツ外相は「明日の世界を形作る上で日本との協力が重要な役割を果たす」と言い、英国防衛大臣は「英国と日本との防衛協力関係は前世紀以来、最高レベルに達した」と述べた。

期待感の抑制

日本が欧州安全保障パートナーと好ましい関係を築いているとしながらも、「距離の制約」が将来の問題になりかねない。例えば英国海軍が2隻のオフショア巡視船を同地域に恒久的に割り当てるという誓約を以てしても、インド太平洋地域における欧州の軍事的存在の持続可能性と規模は、依然として不確実性要因となると言う。また、米国が日本に提供する安全保障レベルは、欧州との軍事協力により達成されないと指摘しているのは注意を要する。

中国の執拗な行動にどう対処するかという問題を控えて日本と欧州諸国が歩み寄る一方で、メッセージ発信と政策を統一するためにすべきことが多い。フランス海軍参謀長は、合同演習の目的は「当地域で我らの存在を示し、日仏協力が強固であるとのメッセージを発信することだと言う。「これが中国に言いたいことだ。」 一方、日本の立場は、微妙なニュアンスに拘り、「地域と世界の平和と安定に貢献し続ける」と宣言している。

これは、中国の台頭に対応して昔ながらの双極構造思想を放棄して新たな道を模索する意欲の現れである。たとえば、ジョンソン英国首相は、インド太平洋地域への英国空母襲撃団21の配備は「決意の現れではあるが敵対を意図するものではない」と言い、英国外相も「古い冷戦意識」は捨てるべきだと述べた。新たな国際秩序は流動性に富む。権力が大きく動く時代、日本とヨーロッパによる共同防衛体制形成は、両者がミドルパワーとしてインド太平洋地域におけるルールに基づく秩序を維持する上で重要な役割を果たすであろう。

(原文:英語)

Yee Kuang Heng

Yee Kuang Heng

Dr. Heng graduated from the London School of Economics and Political Science (LSE) with a B.Sc. (First Class Honours) and then PhD in International Relations funded by the UK Overseas Research Students Award Scheme. He has held faculty positions at Trinity College Dublin, Ireland (2004-2007); the University of St Andrews, Scotland, United Kingdom (2007-2011); and the Lee Kuan Yew School of Public Policy, National University of Singapore (2011-2016). Currently conducting research on Japan’s defence cooperation with its European partners in the IndoPacific, recent publications on this topic include “UK-Japan military exercises and mutual strategic reassurance”, Defence Studies, Vol. 21 Issue 3 (2021) and Enhancing Europe’s Global Power in Asia 2030”, Global Policy, Vol. 11 Issue 1 (2020)